敷地の一部を分譲業者が駐車場として利用。専用使用権の消滅は可能か? (2006年9月号掲載)

Q.

私たちのマンションの敷地の一部を分譲業者Aが営業するお店の来客用及び自家用として6台分の駐車場として利用しています。分譲時の原始規約の中でAの駐車場の利用については無償の専用使用権を認めています。駐車場が足らないので、せめて5台分は返還してもらいたいのですが、Aの専用使用権を消滅させることは出来るのでしょうか?

 

A.

前回のQ&Aで所謂「高島平マンション事件」を紹介しました。この事件では駐車場の専用使用権の消滅と屋上看板等の有償化決議の二つが問題となりましたが、屋上看板の無償の専用使用権を有償化することは適正な金額の範囲内であれば認められることを説明しました。今回は駐車場の専用使用権の消滅について説明します。

前回も述べましたが「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と規定が区分所有法にありますから、もし、専用使用権を消滅させる決議や規約の変更が「特別の影響」を及ぼすものであれば、Aの承諾無くして消滅させることは出来ないという結論になります。

最高裁判所は高島平マンション事件で「特別の影響を及ぼすべきとき」とは「規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益との比較衡量し、当該区分所有者関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう」との立場を前提としつつ、
1.Aは分譲時から営業用及び自家用として駐車場の専用使用権を取得していること
2.駐車場が無くなるとAの営業に支障が出る可能性があること
3.A以外の組合員らは駐車場がないことを前提にマンションを購入している
から、Aが駐車場の専用使用権を消滅させられることにより受ける不利益はその受忍すべき限度を超えているとして、管理組合が行った消滅決議を無効としました。最高裁判所の大まかな考えは「無償の専用使用権」を「有償化」することは出来るが、消滅させることについては否定的であると言えるでしょう。但し、いかなる場合でも専用使用権を消滅させることが出来ないか?については議論の余地があるところです。

最高裁判所もAの不利益が大きいことから受忍限度を超えていると判断しているので、例外的にAの不利益が受忍限度内(それほど大きくない)と判断されるような事情があれば、消滅決議が有効と判断される余地は残されていると思われます。例えば消滅される使用権が6台のうち1台分に過ぎなかったり、消滅させられる専用使用権に対して代替措置(金銭的な補償や代わりの駐車場の提供等)を行うのであれば、Aの不利益は大きくなく受忍限度の範囲内であると判断された可能性はあると思われます。

もっとも、一般論としては現時点では専用使用権をいきなり消滅させることは困難であると理解しておいて良いでしょう。なお、高島平マンション事件の後に所謂グラスコート板橋事件で「駐車場の専用使用権を有する者が対価を支払わなかった場合専用使用権を消滅されることが出来る。」旨の判決が東京高等裁判所で出されています。これら二つの判例をもとにすれば、まず、無償の専用使用権を有償化した上で、有償化の決議に従わなければ、専用使用権を消滅させることは出来ることになります。

 

回答者:法律相談会 専門相談員

弁護士・石川貴康

(2006年9月号掲載)