滞納者の氏名公表はプライバシーの侵害か? (2005年7月号掲載)

Q.

私たちの団地では、管理費の滞納者の氏名を公表できる旨が規約で定められています。この規約に基づいて滞納者Yさんの氏名を掲示板に記載したところ、プライバシー侵害だとYさんから文句を言われました。管理組合の対応に問題はありますか?

 

A.

管理組合が滞納者に管理費を請求することは正当な権利ですが、どのような方法を用いても良いというわけではありません。滞納者といえどもプライバシーはありますから、督促の方法を間違えるとプライバシー侵害として管理組合が責任を問われることもあり得ます。では、質問のような掲示板に滞納者の氏名を記載することは許される方法でしょうか?

この点については東京地方裁判所の裁判例(平成11年12月24日)があります。これは伊東市にある別荘地を管理している町会において管理費の支払いを怠った者に対して、立看板に氏名を掲載したところ、氏名を記載された者が名誉毀損にあたるとして慰謝料を求めた事件です。裁判所は、
1.立看板の内容である滞納している事実は虚偽ではないこと
2.管理費の納入の意思があれば公表を控える旨事前に通知していること
3.町会は管理費を一部でも支払えば氏名を削除する対応をとっていたこと
を指摘して「立看板の設置に至までの経緯、その文言、内容、設置状況、設置の動機、目的、設置する際に採られた手続等に照らすと、立看板の設置行為は滞納者に対する措置としてはやや穏当さを欠くきらいがないではないが、管理費の支払いを促す正当な管理行為の範囲を著しく逸脱したものとは言えないので名誉毀損とはならない。」と判断しました。

もっとも、上記裁判例は「経緯・文言・内容」等を考慮していることから明らかなように、滞納者の氏名を掲示することがどんな場合でも名誉毀損とならないと言っているわけではないことに注意して下さい。

この場合の管理組合の最終目的は管理費を回収することですが、翻って考えると滞納者の氏名を公表することが、管理費の回収に効果的な手段といえるのか?個人的には疑問に感じています。管理組合の督促に応じないのであれば弁護士に依頼して法的手段をとった方がはるかに効果的だと思います。

但し、違法駐車を繰り返すとか、共用スペースに私物を置くとか、周囲の組合員に迷惑が及んでいる場合については、警告的な意味で氏名を掲示することが効果的な場合もあると思いますので、いかなる場合でも氏名の掲示が不適切であるとは言えません。

いずれにしても
1.どのようなルール違反があれば氏名を掲示するのか規約で明確に定めておくこと
2.氏名を掲示することがルール違反の是正に効果的であるとの組合員の共通認識が持てる場合に限定されていること
3.また実際に掲示する前に当該対象者に最終通告をしておくこと
4.是正した場合には直ちに掲示を撤去すること
などが大切であると思います。

回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川貴康
(2005年7月号掲載)