時効期間が経過した管理費を回収することができるか? (2005年3月号掲載)

Q.

組合員のAさんは6年前に1年間程管理費を滞納していましたが、その頃は管理会社も理事会も怠慢だったため、督促もしていなかったようです。このような場合Aさんから回収することは諦めるしかないのでしょうか?

 

A.

管理費の時効期間が5年であることは以前説明しました。5年が経過してしまうともう一切の請求が出来なくなってしまうのでしょうか?

ところで、民法は145条で時効の利益を受けるかどうかは当事者の援用に委ねることを定めています。つまり、滞納者が「自分が滞納していた管理費は時効で消滅しているので払いません。」という意思表明をしない限り、時効の効果は確定的に生じないということです。

Aさんが管理費が5年の時効にかかっていることを知っているが、自らの意思で滞納分を払うのであれば、管理組合がこれを受領して何ら問題はありません。

但し、Aさんがこのように潔い対応をしてくれることは稀で、滞納管理費の時効期間が経過していることを知っていれば、時効消滅を援用することが多いでしょうし、その場合は管理組合としては諦めるほかはないでしょう。

しかし、Aさんが管理費の時効期間が5年だと知らなければ、払ってくれることは十分に考えられます。仮に、Aさんが時効期間が経過していることを知らないで、一部を支払ってしまったり、支払う約束をしたらどうなるのでしょうか?実はこのような場合Aさんはもはや時効消滅の援用をすることは出来ません。読者の中には、Aさん(債務者)の無知に乗じて、管理組合(債権者)が利益を受けることになるのはおかしいのではないかとの感覚を持たれる方もいるでしょう。

しかし、民法には禁反原則というものがあります。これは「自己の行為と矛盾する行為をしてはならない。」という原則のことです。

たとえ、時効期間が経過していることを知らなくとも、債務を承認した以上はその後時効を援用することは最初にした債務の承認と矛盾する行為であるから、そのような行為は認められないということです。

管理組合としては、時効にかかっている滞納組合費があっても、Aさんと話し合いをして(この時に時効にかかっていることを教えてあげる必要はありません)、支払条件について約束させる(後でもめないように書面で行うべきです。)ことが出来れば、後でAさんが時効で消滅していることに気がついてももはや時効消滅を援用されることがなくなり、滞納管理費を支払ってもらうことが出来ます。

但し、騙されたり、脅かされたりして締結した契約について撤回が出来るように、管理組合が詐術的ないし脅迫的な言動をしてAさんに債務の承認をさせてもAさんは後で債務の承認を撤回して、時効の援用が出来ることになりますので、そのような行為はしないように厳に注意して下さい。

回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川貴康
(2005年3月号掲載)