管理費等の時効期間についての最高裁判所の判断は?(1) (2004年7月号掲載)

Q.

最近管理費等の時効期間について最高裁判所の判断が出たと聞きました。これについて教えてください。

A.

平成16年4月23日、最高裁判所はマンションの管理組合が組合員である区分所有者に対して有する管理費及び特別修繕費に係る債権は民法169条所定の定期給付債権にあたるとして5年で消滅時効にかかると判断しました。

民法は167条で債権の一般的な時効期間を10年と定めています。

他方、民法は例外的に短期消滅時効という10年よりも短い期間で時効に係る債権をいくつか規定しており、そのひとつが民法169条の定期給付債権です。定期給付債権は5年で時効消滅します。

定期給付債権とは耳慣れない言葉ですが、以下の事例でイメージしてください。Aさんは20年前生命保険会社の年金保険に加入して、500万円を納めました。Aさんは60歳になった今年から毎月10万円の年金をもらっています。この場合の年金のように一定期間(この期間は1年以下であれば毎月でも6ヶ月ごとでもかまいません)が経過するごとに発生する物の給付を目的とする債権のことを定期給付債権といいます。また、定期給付債権の基となる権利(Aさんの例では年金をもらえるという権利)を定期金債権といます。

さて、マンションの管理費は毎月毎月支払うことが一般的です。つまり管理組合からみれば組合員に対して毎月毎月発生し、請求できる債権ということなります。このような特徴に鑑みて、最高裁は管理費等は定期給付債権にあたると判断したものと思われます。

もっとも、今回の最高裁の判決が出るまでに下級審の裁判所では管理費の時効について5年と判断した裁判例(5年説)と10年と判断した裁判例(10年説)と分かれており、10年説の方が有力と考えられていました。結局5年説をとるか10年説をとるかの最大の分岐点は、管理費の請求権が定期給付債権にあたると考えるか否かによります。

10年説の根拠は、定期給付債権というためには、基本権たる定期金債権から発生する支分権であることを要し、基本権の存在を前提としない債権はそれが『年又はこれより短き時期』に給付すべき債権であっても定期給付債権にはあたらないところ、管理費は原則として会計年度ごとに総会の決議によって決定され、賦課されるものであるからその請求債権は定期金債権ではない。従って、管理費等の納付額が月ごとに分割されているからといって、ここの分割債権は基本権の存在を前提とするものでないからその請求債権は定期給付債権ではないと考えます。他方、5年説の根拠は管理費の支払義務も区分所有者という地位から当然に発生するものであるから、基本権から発生するものであると考えられるというものです。

管理費の滞納という社会的に広汎に存在する事態に対して5年以内に訴えを提起して時効を中断する措置を取らなければならないのは、実務の実態に合致しないとの批判もあり得ましょうが、最高裁が5年と判断した以上は、徴収する管理組合としてはこれを前提に対応策を採るべきです。

回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川貴康
(2004年7月号掲載)