上階のフローリングを畳に戻すよう求めることは可能か? (2003年1月号掲載)

Q.

Aさんは301号室に住んでいます。最近401号室のBさんが床を畳からフローリングに替えました。AさんはBさんの歩く音や椅子などを引く音が上から響くようになり、夜も眠れないようです。フローリングの床をもとに戻すようにAさんがBさんに要求することは可能でしょうか?

A.

最近はハウスダストやダニアレルギー等に対する問題意識の高まりから、床をフローリングに替えることが珍しくありません。フローリングに替えたからといって必ずしも音が大きくなるわけではありませんが、畳やカーペットに比べると音が響きやすいのは確かです。

ところで、一般論としてAさんがBさんに対してフローリングを撤去して畳に戻すように請求することは可能です。このような権利を差止請求権といいます。

では、この差止請求権はどのような場合に認められるのでしょうか。本件と同様の事案で東京地方裁判所八王子支部の判決は次のように判断しました。

「騒音等に対する受け止め方は、各人の感覚ないし感受性に大きく左右され(略)るが、平均人の通常の感覚・感受性を基準としても本件フローリング敷設によるによる騒音被害・生活妨害は社会生活上の受忍限度を超え、違法なものとして不法行為を構成する。」

「差止め請求が認められるか否かは、侵害行為を差止めることによって生ずる加害者側の不利益と差止めを認めないことによって生ずる被害者側とを被侵害利益の性質・程度と侵害行為の態様・性質・程度との相関関係から比較衡量して判断される。」

もう少しわかりやすく説明すると
1.フローリングから出る音が受忍限度を超えると違法行為となる。
2.受忍限度内か受忍限度外かは一般社会の平均的な人間の感受性を基準にする。
3.差止めが認められるか否かは加害者側と被害者側の事情を考慮してケースバイケースで判断する
ということです。

ちなみに、上記八王子の裁判所はフローリングから出る音を違法であると判断して慰謝料として75万円を支払うように命じていますが、差止め請求までは認めていません。フローリングによって生じた音について受忍限度を超えて違法であると判断されても、差止め請求まで認められないこともあり得ることになります。極論すれば違法であっても程度が軽ければ金銭賠償だけ認められて、程度が重ければ金銭賠償の他に差止め請求まで認められるということです。

本件でもBさんが出している音がかなりひどければAさんの差止め請求が認められることはあり得ますが、その判断は最終的には裁判所に委ねられます。

フローリングについてのトラブルを防止するために管理組合としては規約に申請手続(管理組合の事前承認を要する等)や遮音性能(Lー50以上を使用する等)についての基準を定めておくべきでしょう。

回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川貴康
(2003年1月号掲載)