滞納者に訴訟の弁護士費用を全額請求できるか?(2016年3月号掲載)

私が住んでいるマンションには、長期にわたり管理費や修繕積立金を滞納している住民がいます。そこで、管理費等を請求する訴訟を起こすことを理事会で検討していますが、訴訟は弁護士に依頼するようです。この場合、弁護士費用も全額滞納者へ請求できますか。

まず、ご自身のマンションの管理規約をご覧下さい。

標準管理規約には、その60条2項で「組合員が前項の期日までに納付すべき金額を納付しない場合には、管理組合は、その未払金額について、年利○%の遅延損害金と、違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対して請求することができる。」と規定されています。マンションの管理規約に、同様の規定がなされていますか。

もし、同様の規定がない、つまり弁護士費用等を滞納者に請求できる旨の規定がない場合には、請求は原則としてできません。仮に弁護士費用等を特定の滞納者に負担させる旨の総会決議があったとしても、このような決議は、「特定の組合員に対して、その意に反して一方的に義務なき負担を課し、あるいは、他の組合員に比して不公正な負担を課するような決議」として無効とされています(東京高判平成7年6月14日)。

そのため、管理費等の滞納者に対して弁護士費用等を請求するためには、まずは管理規約に規定があることが前提となります。

では、弁護士費用等を滞納者に請求できる旨の定めが管理規約にある場合、管理組合は、弁護士費用を全額請求できるのでしょうか、それとも裁判所が相当と認めた金額のみ請求できるのでしょうか。

この点が争われた判例として、東京高判平成26年4月16日(判例時報2226号26頁)があります。

第一審は、規約にうたう弁護士費用が確定金額ではないことを理由に、実額ではなく、裁判所によって認定される相当額であるとしました。しかし、高等裁判所は、管理組合が弁護士に支払義務を負う全額の支払いを命じました。

その理由として、弁護士費用等は違約金であって、その性格は違約罰(制裁金)であることを挙げています。そこには、滞納者は当然に負担すべき管理費等の支払義務を怠っているのに対し、管理組合は、その当然の義務の履行を求めるに過ぎないのだから、衡平の観点から、管理組合に弁護士費用等の持ち出しを強いることはよくないという価値判断があります。

もちろん、弁護士費用等が不合理に高額な場合は、相当な金額に限定されますが、そうでない場合には、滞納者自らの不払い等に起因する違約金であり、自ら回避することができるものですから、全額の負担を滞納者に課しても不合理とはいえないと判断したのです。

これまで、実額か相当額かにつき、地方裁判所レベルでは結論が分かれていましたが、今回ご紹介した高等裁判所の判例により、今後は実額との考え方が定着するものと思われます。

回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・内藤 太郎
(2016年3月号掲載)