「賃借人Bの同居人Cが共用部分の設備を破壊 部屋の持主Aに修理代を請求できるか」(2014年5月号掲載)

私達のマンションの組合員であるAさんはBさんに部屋を貸しています。Bさんの同居人であるCさんが酔っ払って共用部分の設備を破壊しました。管理組合で修理代金の10万円を支払い、Cさんに請求しましたが支払わないまま引っ越してしまいました。管理組合としてAさんに請求したところ、自分はBさんに貸していただけであり、Cさんの行為について責任は負う理由はないと拒否されました。管理組合はAさんに請求することはできないのでしょうか?

酔っ払って共用部分を破壊する行為が区分所有法や規約に定められている義務に違反することは明らかですが、本件ではそのような行為を行ったのが組合員であるAの賃借人の同居人であるCです。Cが責任を負うことには異論はないと思いますが、果たしてAは責任を負うのでしょうか。

民法415条は「債務者の責めに帰すべき事由」によって債権者に損害を与えた場合は損害賠償責任を負うと規定されていますが、ここでいう「債務者」には「履行補助者」の故意・過失も含むとされています。

ない言葉かも知れませんが、例えば、宅配ピザ屋さんにピザの配達を依頼したところ、アルバイトの配達員が転倒してピザを駄目にした場合、ピザ屋さんが転倒したのはアルバイトの責任で自分は責任を負わないという言い訳はできません。この場合アルバイトはピザ屋さんの「履行補助者」であり、履行補助者(アルバイト)の故意・過失は債務者の故意・過失と同視して良いという見解があります(反対する見解もあります)。

このような履行補助者の考え方を本件でも適用できるでしょうか。本件と同様な事案が実際の裁判で争われたことがあります。裁判所(宮崎地方裁判所平成24年11月12日)は次のように判断しました。  

「民法415条の『債務者の責めに帰すべき事由』とは、債務者の故意過失だけではなく、信義則上これと同視すべきものとして、履行補助者の故意過失をも含むものと解すべきである。区分所有者が、管理共有物の使用につき組合員の共同の利益に反する行為をしてはならないという規約の遵守義務を負っている場合、区分所有者からその所有部分を賃借した者やその同居人も、同部分を使用収益する以上は、区分所有者の上記義務の履行を補助する関係にあるとみることができる。区分所有者は、その所有部分を賃貸して収益を得ている以上、賃借人ないしその同居人が他の区分所有者(組合員)に対して損害を被らせた場合に、自らに故意過失がない限りこれを賠償する責任を負わないと解するのは妥当でない。そうすると、区分所有者からその所有部分を賃借した者ないしその同居人は、上記義務の履行について区分所有者の履行補助者に当たるというべきであり、区分所有者は自らに故意過失がない場合であっても、賃借人やその同居人の故意過失に基づく上記義務違反行為によって生じた損害を賠償すべき責任を負うと解するのが相当である」

履行補助者の考え方を適用する前提として管理組合と組合員との間に契約関係に基づく債権債務関係があることが必要となりますが、組合員の規約遵守義務はこれに類似するものとして理解しているこの裁判所の考え方は妥当であると思います。したがって、本件でも管理組合はAさんに請求することができることになります。

回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川 貴康
(2014年5月号掲載)