ウォーターハンマー対策(その2)

ウォーターハンマー現象の実例

 実際に百二十件を超える水撃現場調査、実対策を施し問題解決をした結果、以下の3例に大別されます。

 何れも特殊環境ではなくごく一般の集合住宅、戸建住宅であり、居住者は思いもよらぬ離れた場所での「音」「異音」の発生に「不快感」を感じており、その原因が判らぬ「不安感」も手伝い、特に深夜の騒音は安眠妨害等、肉体的及び精神的負担も大きく、近隣との人間関係の悪化も報告されています。
また、ある例では住民AさんがBさん宅からの「騒音」を悪意のある嫌がらせと思い込んでおり、非常に深刻なもので弁護士が仲裁に入っていたケースもありました。

〈実例1 上下階の場合〉

 年齢範囲と生活スタイルの異なるマンションの上下階、あるいは2世帯住宅であり、居住空間はほぼ同構成。「水回り」は全て個別設定が特徴。

現象1 深夜二階寝室にて定期的に原因不明の騒音が発生し、安眠を妨害されている。

原因1 三階キッチンのシングルレバーの急閉止により、水撃が発生し二階寝室に伝搬し、壁内にて反響する。

現象2 休日の早朝など三階洗面所にて騒音が発生し、休日の早朝の安眠を妨害される。

原因2 二階の全自動洗濯機の急閉止により水撃が発生し、三階に伝搬し、三階寝室に反響する。

〈実例2 宅内の場合〉

 先分岐型配管方式を採用の築数年のマンションで、多機能給湯器、食器洗浄器、大型全自動洗濯機等を効率的に使用。

現象1 浴室内で原因不明の騒音が発生し、浴室内で大きく反響し、入浴時に非常に不快感を感じる。湯船の湯の量により発生音が微妙に異なる為、さらに違和感を増幅させ「幽霊現象」として入浴を拒むケースさえあった。

原因1 キッチンのシングルレバーあるいは食器洗浄器、大型全自動洗濯機の急閉止により水撃が発生し、浴室に伝搬して浴室内にて大反響する。

現象2 給湯器が稼働しているにも係わらず、湯の温度設定が不安定になり、一定時間経過後も湯が供給されない場合が多発する。

原因2 給湯器のセンサー類が水撃による継続的振動により破損し、温度設定制御機能または水位設定機能に不具合が発生した。

 

〈実例3 共鳴音の場合〉

 床下空間の体積の大きい戸建住宅で、共鳴現象が発生しやすい居住空間であり、配管経路に曲部が多く、長い直線部を有する為、水圧変動が発生し易く遠方に伝搬し易いことが特徴。

現象 和室や廊下床下より原因不明の異音が発生し、安眠を妨害されている。

原因 夜遅く帰宅する子息が水を飲み、風呂に入る時、シングルレバーの急閉止や浴室混合水栓の切替えや止水時に水撃が発生し、床下内にて反響し、共鳴を誘発した。

 

ウォーターハンマーと関連法規

 これまでウォーターハンマー現象の発生原理、弊害や実例、対策方法としてのウォーターハンマー防止器の正しい選び方等を述べてきました。考えて見れば単純な現象であり、古くから存在する問題でその解決方法も時代の要請に従い提案されてきました。

建築基準法
 ウォーターハンマーの問題は各家庭に無くてはならない水道配管の漏水事故や第三者へのトラブルも発生させ得る問題ですので法律で当然規定されているべき問題です。建築基準法では第三十六条に従い、建築基準法施行令第129条の2の5第2項第六号及び第3項第五号の規定に基付き建設省告示第1597号(昭和50年)により配管設備を安全上及び衛生上支障のない構造とする為の構造方法を定め、「ウォーターハンマーが生じるおそれがある場合においては、エアチャンバーを設ける等有効なウォーターハンマー防止の為の措置を講ずること」と対策を義務付けています。

 エアチャンバーは単に空気の入った縦パイプですが欧米では百年以上前に使われ出し、アメリカでは大建築ブームや電磁弁等の急閉止弁を用いた全自動洗濯機や食器洗浄器やセントラルヒーティングが普及し始めた1960年代前半には機能的劣化の著しいエアチャンバーに代わりピストン方式の水撃防止器が開発されるに至りました。現在アメリカ、カナダの多くの州や郡の水道関連法規ではエアチャンバーは死語になり全自動洗濯機や食器洗浄器、トイレのフラッシュバルブも含む急閉止弁の取付け近辺に水撃防止器の取付けをも義務付けてもいます。

 現在多くの水撃防止器がアメリカから輸入されていますが、ピストンの復帰音や日本の水道水は軟水が多く衛生管理上、硬水の欧米に比べ塩素濃度を高くする必要があり、塩素によるOリングの劣化や真鍮の腐食等による耐久性の問題があり、日本の使用環境に適しているとは言えません。

建築設備と建築基準法
 私は弁護士でも法律の専門家でもありませんので、法解釈をすべき立場には有りませんので抜粋に留めますが、第一条に建築物の敷地、構造、設備に関する最低基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り等の目的を述べ、第二条で給水、排水等建築物に設ける建築設備の定義や建築物を新築し、増築し、改築し又は移転することを建築と定義する事等が定められています。

 一般住宅でのウォーターハンマー問題の約半数がシングルレバーや風呂の混合水栓等の建築物に新築増改築時に取付けた建築設備が原因で発生しています。また建築時のシステムキッチン組込み式の食器洗浄器や個人が後から取付けた全自動洗濯機や食器洗浄器が原因のことも有ります。
前述のアメリカ等の法律の様に、洗濯機等の問題を生ずる可能性の高い電化製品も含み建築基準法では明確に規定していない為、どこまでを建築基準法に違反しウォーターハンマー防止の為の措置を講じていないと言えるかは判りません。

 なお、第八条では建築物の所有者、管理者、占有者は建築物の建築設備も含み常時適法な状態に維持するよう努めなければならないと定め、階下所有者が階上の占有者に水撃で迷惑を及ぼせば管理組合等の管理者も含め責任範疇に入る可能性をも示唆しています。

 建設省告示は建築基準法に準拠した細則ですので、これに違反すれば建築基準法違反となり必要な措置、建築物や建築設備の設計者や施工者や法人に対する罰則等も定められています。
なお不良建築物を購入してしまった場合の瑕疵担保責任については宅地建物取引業法第40条や民法第566条、第570条で定めています。