高経年マンションの大規模修繕工事事例:2023年8月号掲載

 本号で紹介するのは、築年数50年超のマンションの3回目の大規模修繕工事。組合員の要望を考慮しつつ、将来想定される設備配管工事を見据え、修繕積立金の範囲内で、優先順位を検討しながら、設計監理方式で実施した。

1.管理組合の取り組み

 RC造7階建、総戸数277戸の「Tハイツ」は、1971年(昭和46年)竣工、築24年目に1回目、築40年目に2回目の大規模修繕工事を実施した。一般的な工事周期に比べ間隔が開いており、本工事前は外壁塗装の劣化(付着力不足等)が多く見られた。

 管理組合は2020年、日住協の支援のもと、長期修繕計画の見直しから着手。積立金月額を1.2倍に改定し、3回目の大規模修繕工事に備えた。翌年、引き続き日住協の支援制度を活用し、設計事務所選定、大規模修繕工事の検討に入った。

 建物調査では、区分所有者へのアンケートを実施したほか、ワンルーム、ファミリー、店舗区画等、多様な区画があるため、出来るだけ多くのベランダ等への立入調査も実施し、不具合箇所と組合員の要望の把握に努めた。高経年マンションゆえ、居住者も多様化しており、工事内容説明会を開催するなど、合意形成を慎重に進めていった。

 施工会社選定は公募により複数社から工事見積書を取得した。工事金額以外に、工事実績や現場代理人予定者の資質、会社のバックアップ体制等を考慮して絞り込んだ。また工期は、コロナ禍が落ち着き工事件数が増加している時期で、施工会社が万全の態勢で臨めるよう、当初より半年遅く工事着手することとした。

2.工事概要

 今回の工事では、一般的な大規模修繕工事の工事項目(躯体補修、外壁塗装、ベランダ防水等)に加え、屋上防水の全面改修工事も実施した。塩ビシート防水の屋上は、調査段階では全面改修の必要性無しと判断し、部分補修と保護塗装を想定したが、工事実施時期が遅れ劣化が進んだこと、漏水保証のない補修工事より、全面改修により安全性を確保すべきとの判断から、工事着手後に変更した。

 ベランダ防水はそれまでの塗膜防水から、塩ビシートの複合防水を採用。本マンションは、ベランダに洗濯機を設置している住戸も多く、防水工事ではエアコン室外機とともに、洗濯機の移動や復旧も伴ったが(写真①)、施工会社の適切な管理と居住者の協力により、大きなトラブルもなく施工できた。共用廊下や内部階段の床面は、比較的床材の塩ビシートが良好、かつ、仮設足場が不要な部位のため、今回の工事対象から除外した。

写真①:ベランダ防水工事中の洗濯機の処理

 ベランダ天井の物干金物は、床からの高さが高く、多くの居住者が不便を感じていたため、大型(高さのある)で、伸縮可能なタイプに交換した。また共用廊下等の照明器具は、蛍光灯からLED器具に全て更新した。住戸によっては、玄関前の廊下が暗い場所もあり、器具の増設や、高照度のものの採用等の改善を図った。建物周囲では、駐輪場屋根の波型スレート材に、アスベストが含有されていたことから、ポリカーボネイト板に葺き替えた。

 既存の外壁塗装材からアスベストは検出されなかったものの、工事の計画段階では、かなり広範囲に亘って脆弱塗膜の除去も想定していた(写真②)。しかし、仮設足場設置後の詳細調査が想定よりも良好なため、工事契約段階で見込んだ下地補修等の金額は減額となった。屋上防水全面改修に伴う増額があったが、長期修繕計画の予算範囲内に収めることができた。

写真②:屋上外壁塗装の剥離状況

3.工事期間中の検討・対応

 本年1月の工事着工以来、管理組合・日住協・施工会社・設計事務所の4者打合せを月1回程度の頻度で実施し、色彩決定や追加工事実施の可否、居住者対応等を検討した。工事実施直前には、管理会社を採用(それまでは自主管理)し、管理会社担当者や管理員にも居住者への連絡等を担ってもらい、工事は大きなクレームもなく進んだ。

 急遽追加となった屋上防水の全面改修工事も、工期内に終了した。誠実で経験豊かな現場代理人を配置した施工会社の対応、そして何より、臨時総会の開催や、組合員同士の情報共有を積極的に実施するなど、理事長、理事、ならびに修繕委員の方々の協力のもと、本工事は6月末に完了した。
(設計・監理/水白建築設計室 担当者)

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2023年8月号掲載)