工法を再検討し耐震改修工事を実施 大規模修繕工事と窓サッシ改修工事を同時施工:2021年5月号掲載

建物概要

 Sマンションは、西武池袋線江古田駅から程近くに位置し、1972年入居開始で、築49年、A棟はSRC造の14階建120戸、B棟はRC造8階建77戸の計2棟197戸からなるマンションである。

耐震改修工事実施までの流れ

 旧耐震基準でできた同マンションは、耐震性不足を危惧する居住者の声もあったことから、2013年に耐震診断を実施した。その結果A・B両棟ともに耐震性に問題があることが判明した。

 そこで、耐震改修工事にかかる費用を算出したところ、当時の設計コンサルタントからは、戸当たり約450万円という費用が提示され、それ以来、多額の費用負担が重しとなり、耐震改修の議論が進まない状況が延々と続いていた。

 その後、戸当たり約450万円という額の妥当性に疑問を持った理事会は、都に相談するなどして、コンサルタントの選定から見直すこととし、コンサルタントを再公募、2018年に㈱耐震設計を新たな設計コンサルタントに選定した。加えて、同時施工を円滑に進めるため、㈱アークブレインに事業コンサルタントを依頼した。

 そして㈱耐震設計が実施設計を行ったところ、十分な耐震性を確保できる工事が、費用も大幅に削減して行える見通しがたった。

大規模修繕工事も併せて施工へ

 耐震改修工事に併せて、大規模修繕工事を実施。今回は、外壁補修工事、防水工事、外壁等塗装工事、鉄部塗装等に併せ、全戸の窓サッシ・玄関扉および廊下面の格子等の設備改修も実施することにした。

補助金を活用し費用を圧縮

 大規模修繕工事と併せ、長期修繕計画にない耐震改修工事を行うと、費用をどう賄うかが課題となるが、同マンションでは耐震改修工事のために借り入れを行うものの、今後10年間、積立金を戸当たり月4000円増額することで返済できると試算。その他、耐震改修工事の区からの補助を活用すれば、工事費用を圧縮できると試算した。

 結果、総工事費(総事業費)約690百万円のうち、積立金約4割、助成金約1割、借入金約5割を資金源とし、建装工業㈱を施工者とする耐震補強・大規模修繕工事を2019年の総会に諮ったところ賛成多数で可決し、2020年1月に着工、2021年3月に工事は竣工した。

異なる耐震改修工法

 AB両棟では異なる耐震工法が採用された。

 A棟では、中間階(8~11階)の一部住戸のバルコニー外壁に補強材を敷設する「外付けデザインUフレーム工法」が採用された(写真1参照)。

写真1 補強された中間階バルコニー

 B棟では「外付けPCフレーム工法」が採用された(写真2参照)。

写真2 外付けされたフレーム

 工事にあたっては、A棟では、補強が必要な8~11階の全34戸中16戸のバルコニーを一度撤去したうえでの工事となり、工事に伴うハツリの騒音等が発生するほか、しばらくバルコニーが使えない、窓が開けられないという不都合も発生。しかし工事時期が夏の非常に暑い時期にもかかわらず、居住者からは特に苦情もなく、工事が行われた。

 B棟では、一部の住戸のバルコニー前にフレームが付けられるが、それらの住戸から不満の声もなく、順調に工事が進められた。

 また、コロナ禍の最中での工事となったため、工事関係者の体温測定等、十分な感染症対策のもとで工事は施工された。

 過去の地震で、壁に亀裂が発生していた同マンションでは、生活するうえで長らく不安要素だった耐震性の不安が解消されたことが、苦情等がなかった要因と考えられている。

窓サッシと玄関扉の改修で住環境も向上

 窓サッシと玄関扉の改修工事も同時に施工され、サッシはLow-E複層ガラスで換気用の小窓付きのサッシに、玄関扉も高性能で換気機能付きの扉に全戸改修し、断熱性と気密性が向上し、住環境も改善された。同工事にはて環境省や東京都の助成金を利用することで工事費用の圧縮が図られ、工事中発覚した想定外の老朽箇所の修繕工事にも着手することができた。

2021年5月号掲載