居住性能等のグレードアップを行った第2回大規模修繕工事:2020年10月号掲載

1 概要と経緯

 Mマンションは、埼玉県の鶴ヶ島駅から徒歩5分程の駅前通りに面する利便性の高い郊外型マンションである。建物は11階建て63戸の単棟型マンションで、1階には5店舗を擁している。1995年に入居が開始され、経年12年目(2007年)に第1回大規模修繕を実施し、今回25年目(2020年)に第2回大規模修繕を実施した。

 管理組合は、201711月の総会で大規模修繕委員会を設置。最初の1年で大規模修繕の進め方について検討を重ね、20188月の臨時総会で、設計監理方式とすること、及び日住協の支援制度の利用を決めた。その後、設計・監理事務所の選定を経て、大規模修繕に向けた調査診断・修繕設計・施工会社選定と、計画的に進めていった。実施検討開始から工事完了までは3年掛かりとなった。

2 工事内容

 当マンションは定期的に大規模修繕を行っており、重大な劣化の進行は見られなかった。しかし第1回で更新した屋上塩ビ系シート防水(機械固定工法)のシートの亀裂等が見られた為、防水工法・性能を検討した結果、高耐久仕様の塩ビ系シート防水(機械固定工法)で全面更新して屋上防水の修繕周期長期化を図った。

 また外壁タイルの浮きが多く見られた為、補修工事着手前に管理組合・監理者・施工者で協議し、剥落した場合の危険性や美装性を重視して部位毎に修繕方針を定め補修を行った。その他、性能維持の修繕を行うと共に、居住者からの意見要望に注視し、居住性能やマンション内の美装性を上げるグレードアップ工事も多く取り入れた。

3 機能性向上

 エントランスホールに入るオートロック扉は自動扉であるが、外部側扉はスチール製開き戸で重く、高齢者やベビーカー利用者等には支障があると意見が挙がり自動扉化を検討した。自動扉の開閉方式・扉デザイン・開口寸法などを検討し、設計を行った。自動扉化を実施したことで誰でもスムーズな通行が可能になった。また住戸アルミサッシは全更新する程不具合はないものの、日常的な動作の不具合が生じていた。

 調査・検討した結果、気密ゴムや戸車の部品更新を全住戸対象に実施した。その他、建物際の駐車場舗装の沈下補修、共用部照明LED化も実施することが出来た。

4 美装性向上

 エントランスホール壁は全て自然石調塗装で少し暗い印象であった。既存の石調塗装を残しながら、明るい印象になるよう明度を上げた仕上げ材や色彩に変更した。また煩雑化していた掲示板を、壁面全体にまとめるデザインとした。階段サインはプリンター印刷のパウチだったので、階数表示板と一体化したデザインとした。複数案のデザイン提案を行い選定した。その他ブラインドや観葉植物家具を配置し、マンションの共用空間を潤いあるインテリアとした。

エントランス扉(改修前)

エントランス自動扉(改修後)

デザイン掲示板(改修後)

5 コロナ禍での工事対策

 設計から着工準備までは予定通り順調に進み、4月から着工としていた。

 3月頃より新型コロナウィルス感染症拡大により、委員会や居住者への工事説明会開催が困難となった。集会形式の工事説明会は取り止め資料配布とし、質疑回答は戸別にメールや電話の対応に切り替えた。4月中旬に着工し、日々の作業員の検温チェック、共用部でのマスク着用、頻度を増やしてのアルコール消毒など、対策に注意しながらの工事となった。アルミサッシ部品更新時に住戸内へ立ち入る工事では、作業員人数を抑え室内作業時間を極力短縮するなど配慮した。

 今回工事では修繕委員の皆様が様々な問題に迅速な判断と対応をいただき、また熱心な活動によって、無事に大規模修繕工事の竣工を迎えることが出来た。また居住者の皆様の工事への理解とご協力によって円滑に進められた事に感謝を致します。

株式会社汎建築研究所 一級建築士 糸満友香

集合住宅管理新聞「アメニティ」2020年10月号掲載