長期修繕計画を見直し限られた工事予算で目的達成:2019年8月号掲載

工事事例 S住宅大規模修繕工事・電気設備改修工事

有限会社 モア・プランニングオフィス一級建築士事務所
一級建築士 尾崎京一郎

□建物概要

 「S住宅」は、1982年竣工、鉄筋コンクリート造の地上4~5階建て7棟+付属棟、住戸数は136戸の(旧)日本住宅公団分譲の中層住宅団地である。最寄りの駅は、東急田園都市線「あざみ野駅」である。

□大規模修繕工事実施から竣工まで

 管理組合では、理事会の諮問機関として計画修繕検討委員会を設置し、会則では「S住宅の土地建物共有部分の財産価値の維持増大を図るため、将来必要となる大規模修繕等に関する諸問題につき、あらかじめ継続的に検討し、管理組合からの諮問にこたえることを目的」としている。

 団地の維持保全は、現在所有している「長期修繕計画書」をもとに行っていたが、現状にそぐわない点があり、新たな長期修繕計画が必要であると管理組合は判断した。新たなプランを含め、2015年3月より先ずは長期修繕計画見直しの作業から着手した。この時点での築年数は33年を経過しており、今後30年間の保全計画と、第3回目の大規模修繕工事を控えた今後5年間の詳細な保全計画を立てるものであった。

 見直しの主旨は、将来的な住宅の改善を含む今後の維持保全の資金計画が、どのように推移していくかの検証を含めた計画である。もう一つに大規模修繕工事を迎える団地としてのスローガンとして「安全・照明器具のLED化」を掲げ、その対策費用も計画修繕の中に落とし込んでいった。

 計画策定において、先ず、「S住宅」の建築物・構造物・各所の設備・建物の使用勝手を調査し、次に2008年6月に公表された「長期修繕計画の標準様式(国土交通省)」の推定修繕工事項目ともすり合わせを行った。

 2016年3月に新たな「長期修繕計画」を策定し、同年4月に居住者全員に対して「長期修繕計画の説明会」を実施し、引き続き計画されている「大規模修繕工事」への資金計画も説明会の中で行った。

 2016年5月から大規模修繕工事実施に向けて、建物調査診断の実施、大規模修繕工事基本計画策定、大規模修繕工事実施計画、施工会社選定を行い、2018年9月に大規模修繕工事実施を迎えた。大規模修繕工事前に実施したアスベストの事前調査結果で一部の棟からアスベストが検出されたが、市役所と除去対策の打合せを入念に行い、団地内居住者へのアスベスト対策の説明会を実施した。説明会では調査報告、除去対策準備や作業手順、保管・廃棄について説明を行った。

工事中の足場

 大規模修繕工事に於いては、基本として長期修繕計画で策定した工事項目で実施したが、計画上17年後に予定しているアルミサッシや玄関扉の交換工事に対して、居住者から今回実施の要望が委員会へ届くようになり、限られた予算の中でどの工事を最優先するかを納得いくまで検討した。

 玄関扉においては、現状(新築当時から)の錠前ハンドルは握り玉の形状をしており、手の握力が低下した高齢者には引手の力が弱いため、外部から扉を開ける際に難儀するという事態が判明した。工事費のやり繰りの末、先送りにしていた玄関扉(プッシュプル錠+対震丁番)の更新工事を本工事で実施することが出来た。管理組合のスローガンであった「安全」がひとつ増え、竣工の喜びがまた一つ増えた。

バルコニー防水

ポストの取替

S住宅全景

(2019年8月号掲載)