第3回目の大規模修繕工事 コンクリート躯体と屋根防水改修に注力:2018年5月号掲載

(有)八生設計事務所 鈴木和弘

1.建物概要

 S住宅は、西武新宿線狭山市駅を最寄り駅とし、周囲には公園、学校、保健センターなどの公共施設が多くあり、生活しやすい環境に位置しています。

 建物は昭和50年竣工で、5階建の階段室型住棟が11棟、計270戸の旧日本住宅公団(現・都市再生機構)分譲の団地型マンションです。

2.大規模修繕工事までの経緯

 S住宅は、築11年目と22年目に計2回の大規模修繕を実施しています。

 その後、住戸内の給排水管の改修工事を築40年目に実施したため、第3回目の大規模修繕工事の時期が遅れ、今回の工事は、前回の大規模修繕工事から20年後の築42年目に実施されました。

 また、今回の工事はNPO日住協の大規模修繕工事支援制度サービスを利用しており、工事の計画から完了まで日住協の支援を受けながら進められました。

3.工事内容

 調査・設計段階では、前回の大規模修繕工事から19年が経過していたこともあり、コンクリート躯体の劣化が進行していました。また、屋根防水も防水層端部の納まりが悪く、屋根の大庇部分で劣化が多く見られる状況でした。

 そのため、今回の工事は、劣化したコンクリート躯体の修繕と屋根防水の改修を重要な工事と位置づけました。コンクリート躯体は、バルコニーの天井面の劣化(鉄筋の錆びによるコンクリートの亀裂・剥離)が多く見られたため、劣化部の補修後、天井面の塗装前に鉄筋の保護のためポリマーセメントモルタルの左官塗りを行いました。屋根防水は、新築時の防水層と2回重ね張りした改修防水層及びそれを保護していた砂利を全て撤去して新規に塩ビシートで防水し、建物への荷重の低減を行いました(写真①・②)。また防水シートの下に断熱材を敷設することで断熱性の向上も行いました。

 その他に、大規模修繕工事に合わせて行った方が合理的なグレードアップ工事として、階段室床の防滑塩ビシート貼りや階段室の照明器具のLED化も行っています。

工事事例 写真①屋根防水工事前

工事事例 写真 ②屋根防水工事後

4.工事中の対応

 工事が始まり各棟の足場を架け、既存屋根防水材の撤去やコンクリート躯体劣化部の補修が始まると、想定していなかった不具合や建物の形状がわかり、工事中は様々な検討課題が発生しました。

 工事中は、2週間に1回、時には1週間に1回の間隔で工事進捗報告会議を開催し、工事の進捗状況・居住者への対応内容の確認に加え、想定外の不具合への対応方法の検討や、コンクリート躯体補修等の実数で精算する工事の補修数量・金額の推移の確認、仕様変更などの減額工事の検討を、管理組合・日住協・施工会社・設計事務所で協議をして進めていきました。この工事進捗報告会議で、様々な検討事項に対して管理組合のメンバーの方々に迅速に対応していただいたことが、今回の工事をスムーズに進めることができた一番の要因であると思います。また、現場代理人と工事監督員のチームワークも良く、工事の遅れは発生しましたが、最終的には予定工期からの大きな遅れもなく、工事を無事完了することができました。

 最後に、屋根防水材の撤去・コンクリート躯体劣化部の撤去などで騒音・振動が発生することが多く、居住者の負担も大きい工事でしたが、居住者の工事への理解と協力のおかげで、無事に工事を完了することができ、感謝申し上げる次第です。

建物外観

(設計・監理/有限会社八生設計会社、施工/JS日本総合住生活株式会社)

(2018年5月号掲載)