3回目の大規模修繕工事 外壁はく落防止対策と外観のイメージアップを図る:2015年9月号掲載

◆マンション概要

 Rマンションは永代橋の西岸、中央区新川一丁目に建つ、地上11階建て、住宅43戸、店舗3戸、事務所3戸からなる都心型の分譲マンションである。竣工は1979年、今年で築36年を経過する。現在までに2回の外壁を中心とする大規模修繕工事、屋上防水改修工事、給水設備改修工事等の大型修繕を実施している。

◆工事までの経緯

 2011年の東日本大震災では、都内においても何らかの損傷を受けたマンションが少なくない。Rマンションにあっても、外壁の開口部周囲にひび割れが生じるなどの損傷を受けた。建物全体の損傷はごく軽微ではあったものの、外壁を仕上げている磁器質タイルの一部が建物前面の歩道に落下するなどの事象があった。

 前回の大規模修繕工事から8年を経過した時点であったが、4年程前に給水管の更新と増圧直結給水化を実施したことやエレベーターの更新工事を予定していたこともあり、震災直後は歩道に面する外壁面をゴンドラにより点検し、外壁タイルの損傷箇所や落下の恐れのある箇所を手当てするに止められた。

◆工事内容の検討

 建物の外壁は正面側が磁器質タイル張り、裏側となる共用廊下面は吹付塗装仕上げとなっている。過去2回の大規模修繕工事では、磁器質タイル仕上げ面にあっては、浮きやひび割れたタイルを部分的に張り替えたり、ピンとエポキシ樹脂により浮きを留めるなどの一般的な補修を実施。

 周辺はオフィスビルが多く、建物正面に面する歩道の通行量も少なくない。震災時には幸いにして落下した外壁タイルにより通行人に怪我を負わせることはなかったものの、建物の経年や震災などの影響により接着力の低下しているタイルが混在あるいは拡大する可能性が否定できない。

 そこで、まず最優先されるべき事項として、歩道に接している外壁タイルのはく落防止対策を講ずることとした。

 外壁タイルのはく落防止対策としては、一般に「ピンネット工法」と呼ばれる繊維ネットとポリマーセメントモルタルなどで既存の外壁タイルおよびモルタル層を補強し、アンカーピンを併用することではく落を防止する工法を採用した。

 新たな外壁仕上げは、塗材による塗り仕上げ、タイル張り仕上げ、透明度の高い繊維ネットにより既存タイルを生かす方法など工法により選択の幅がある。今回は建物の周辺環境なども考慮し、自然石調シート建材を採用して外観のイメージアップを図ることとした。

 また、工事費全体のバランスの面から隣地側の一部は高弾性塗材による塗り仕上げとし、共用廊下側のもともと吹付塗装で仕上げられていた面は、微弾性フィラーとアクリルシリコン樹脂塗料による一般的な塗り替え仕様としている。

 その他、各戸玄関扉は塗装仕上げから硬質塩ビ化粧フィルム張りとしたり、窓面格子の取替え、照明器具の取替えおよび増設、メインエントランスアプローチの意匠改修など、いろいろな環境改善工事を実施している。

ピンネット工法による下地構築作業

◆工事の実施

 工事は平成27年2月から7月までの約6ヶ月間。当初は6月までの5ヶ月間を予定していたが、降雨など天候の影響もあり約1ヶ月の延長となった。

 ちなみに、建物正面側は人通りの多い歩道に接しているため、通行の妨げにならないよう仮設方法としてゴンドラを採用したこともあり、ピンネット工法による下地層の構築、自然石調シート建材張り仕上げとも難易度の高い作業となった。

 特に自然石調シート建材の仕上がり感を高めるため、既存外壁面の凹凸や傾斜を修正し、新たな下地層の平滑性や水平・垂直精度を高めるのに労力を要した。

 工事完成後の建物はオフィス街である周辺の街並みとも調和し、外観イメージが一新したものとなっている。
(設計・監理=㈱スペースユニオン、施工=リノ・ハピア㈱)

自然石調シート建材張り作業

(2015年9月号掲載)