躯体不具合の再発防止に注力した第2回目の大規模修繕工事:2011年2月号掲載

H団地(東京)

 当団地は、築25年を経過し、第1回目の改修工事を13年前に実施した総戸数498戸のマンションである。管理組合は、第1回目の改修後、躯体の不具合再発やバルコニー、外廊下手すりの支柱基部の不具合が多発し、躯体の修繕方法に対して弊社に改修工事の視察要請があった。ひび割れや支柱基部の補修について細かな質問に応じた数カ月後、管理組合修繕担当の数名が来社され、突然業務委託を伝えられた。こんな選定の仕方もあるのかと少々戸惑いもあったが、管理組合の求めていたパートナー選定は、躯体不具合に対する技術ノウハウの程度に重点が置かれていた。

 別途検討されていた基本設計では、屋上防水更新や共用施設の各棟エントランス内装改修など環境改善を含め多岐に亘っていた。そのため修繕予算も肥大化するのは当然のことであるが、今回の大規模改修は、ニーズに合った必要な修繕にとどめ、改修費用の縮減と使えるものは使い続けるという弊社の意見が一致し、以下のように改修基本方針の見直しをした。

(1)通常必要な経年劣化の修繕のほか、不具合を誘発している納まりの改良を可能な範囲で改善
(2)躯体に関わる劣化現象やその恐れがある部位は最優先で徹底して修繕
(3)耐用年数を経過していても支障がなければ更新改修の先送り
(4)付属施設や各棟エントランス廻り、外構等は、ニーズや利便性を重視して最小限必要な範囲で環境改善

 特に、躯体改修の再発不具合は、完全になくすことは極めて困難と考えられるが、運悪く再発した場合は、前修繕仕様と直し方を再構築することを考えたい。そこで、以下に今回の躯体改修工事の一部を重点的に述べることとする。

【躯体のひび割れ等補修】

 第1回目のひび割れ処理は、セメントフィラー塗布工法がほとんどで、注入処理もあったようだ。特にパラペット打ち継ぎ部や立ち上がり外面は、再発が目立っていた。貫通したひび割れは、温度変化等の影響で挙動が常にあるもの。そのため、拘束接着したり表面的なフィラー処理では再発しやすい。今回のひび割れ処理は、挙動追随性のある軟質型発泡エポキシ樹脂で重点的に注入処理し、打ち継ぎ等の界面は、新たに目地成形を行っている。また、表面的な毛細な亀甲ひび割れはフィラー処理としている。

 躯体内部に発見された構造上重要な数カ所の空洞部は、鉄筋や鉄骨の防錆と躯体との一体化処理のため、隙間充填防錆グラウト材で注入充填処理した。

【アルミ手すり等埋め込み型支柱基部の予防保全と補修】

 第1回目の改修工事では、不具合原因をつぶす処理を特に行ってなかった。アルミ支柱部が躯体に埋め込まれ、支柱内部と躯体の基部は空洞が存在し蓄水。下地に鉄骨を使用しているので雨水等の浸入により腐食し爆裂する。下地アンカー部は、一部にかぶり厚さ不足があり、外側表面等の再発爆裂も見られた。

 アルミ手すり支柱基部等埋め込み部は、全数の支柱内部と躯体の空洞部の隙間充填防錆グラウト材注入処理以外に、不具合の出方や設置に状態が多様なため全数を調査して以下の通り補修方針を類別して基部補修した。

(1)基部アンカープレートのかぶり厚さ不足部A/プレート表面のはつり出し+防錆材塗布+防錆材入りモルタル修復+防錆材塗布
(2)基部アンカープレートかぶり厚さ不足部B/表面プレートの切除+防錆材塗布+防錆材入りモルタル修復+防錆材塗布
(3)基部が内側にずれて設置されアンカー部かぶり厚さ不足部C/基部支柱表面のはつり出し+防錆材塗布+防錆材入りモルタル修復+防錆材塗布

 バルコニーなどの手すりは、基部の性能で耐久性が決定すると言え、修繕による延命策を求めるならば、繊細な処理工法と材料の選定が必要と考えられる。

 

(設計・監理/有限会社鈴木設計事務所
施工/株式会社長谷工リフォーム
協力会社/株式会社永和工業、株式会社エフ・ジー装飾、東京仮設ビルド株式会社、加藤建材株式会社、三協立山アルミ株式会社)
<アメニティ新聞341号 2011年2月掲載記事>