大型団地の給排水改修(その1):2009年6月号掲載

■マンションの概要

 W住宅は、昭和54年に日本住宅公団が分譲した889世帯の大型団地で、東京から約50km、埼玉県のほぼ真ん中に位置し、緑豊かな環境と都心への交通の便に恵まれた団地である。約9万m2という広大な敷地の中央にそびえ立つ当時市内最高14階建ての高層棟を中心に、8階建て棟、5階建て棟、2階建てテラス棟とバラエティに富んだ全35棟の大型団地である。

室内の排水管更新状況

■2006年度の改修基本計画と長期修繕計画

 長期修繕計画において給排水設備の改修が予定されていることを受け、まずはその必要性の再確認と改修範囲・方法などについて検討を行った。

 6つのブロックに分かれるこの団地は、建物形態の違いにより給水管や排水管についても使われている材質やシステムが異なるので、まずはその内容をわかりやすく図解し、30人程いる修繕委員のメンバーで理解し情報を共有することから始まった。内容がわかれば、おのずと疑問や課題も浮き彫りとなり、段々と検討するレベルが高まってくる。

 設計コンサルタント側からは、将来を視野に入れた理想的な配管システムの提言なども行いながら、委員会の中で夢を共有していく。特に課題となったのは、いわゆる「スラブ下排水管」と呼ばれる下階住戸の天井内にある排水管の改修と、タイル貼り在来浴室の防水層と排水金物の改修についてであった。

 理想を追い求める一方で、配管の抜管調査を行い、現在の腐食状況について再確認した。その結果、使われている管の材質や場所、流される排水系統により腐食の度合いが異なることが明らかとなり、それらを図にマッピングして整理した。

 何せ、もともとの積立金の額が安く設定されていたこともあり、資金が足りないのである。いつまでも理想ばかりを検討していられないという現実もあり、本当に今、改修が必要なものは何かという検討も進めていきながらも、やはりある程度は長期的に見て合理的な選択でなければならず、無駄や重複のある改修は行ってはならない。このような難しい状況の中で、数年先の積立金の値上げを検討し、次回大規模修繕工事のための備えを考えながら、設備配管の改修範囲を優先順位付けしていった。

 その結果、築29年目に行う今回の設備改修工事は、下記の方針で行うこととなった。

[給水設備]ステンレス給水竪管

(1)団地全体の給水システムは変更せず、劣化が著しい「塩ビライニング鋼管」に絞って改修する。
(2)「塩ビライニング鋼管」の改修範囲は共用部分に限定し、専有部分には次回以降の工事として引き続き検討。
(3)「塩ビライニング鋼管」の改修工法は、延命的な措置ではなく、根本的に耐久性と耐震性を高めることができる更新工法とする。
(4)実は6年前に部分的(水道メーター廻りなど)な配管交換工事を実施してあったが、それらまだ使えるものは継続使用とし、無駄のない改修範囲とする。

[排水設備]
(1)台所の排水が流れる系統を改修対象とし、腐食が特に激しく漏水の発生が懸念される鋼管(鉄管)を改修する。
(2)改修工法は、延命的な措置ではなく、根本的に耐久性と耐震性と排水性能を高めることができる更新工法とする。
(3)その他の浴室・洗面・洗濯・便所の排水管は、残存寿命的に猶予があるので、専有部の給水管・給湯管と併せて次回以降の工事とし、スラブ下排水管の「スラブ上化」や、タイル貼り在来浴室の防水層改修をも含め、総合的に引き続き検討してく。(柳下 雅孝)       (つづく)
設計・管理/㈱IK都市・建築企画研究所、宮城設計一級建築士事務所、施工/建装工業㈱

<アメニティ新聞321号 2009年6月掲載記事>