雁行型テラスハウスの第2回目の大規模修繕工事:2009年2月号掲載

Hマンション(横浜市)

 当マンションは、築22年経過した建物で横浜地区特有の傾斜地に建つ雁行型テラスハウスである。斜面に沿って建てられ、雁行している上に階段状の建物形状で、通路部分のほとんどは急勾配の階段で構築されており、手すりはあるものの実用性や機能面で難点があった。  

 第2回目の改修に伴い建物を調査したところ、屋上直下階をはじめ漏水が各所にあり、その解決が課題となった。特に屋上防水は、過去に被せ工法にて改修された経緯があったが、雨水の浸入経路を完全には処理しきれていなかったようである。今回の大規模修繕は、特に各所の漏水に対する保全処理と階段の安全性付与が重点課題になった。

◆屋上防水等の改修

 屋上は、アスファルト露出防水であり、部分補修では直しきれないほどのシワ寄りや断裂など防水層の役物廻り劣化や排水ドレーン廻りの劣化、通気トップ金物基部の劣化が確認され、漏水住戸は、水下側に集中していた。前防水改修の折に、納まりの改善や劣化部の保全をせずに防水層を被せたことや排水口を改修ドレーンに更新していなかったことが防水層の口開きや劣化を早めたものと考えられる。

 そこで今回の工事では、旧屋上防水層を全撤去し更新することとした。撤去時、防水層下に雨水の滞留が確認され、漏水住戸付近の屋上床版のひび割れの止水処理を行って防水層の納まり改善に努めた。  また、一部に緩衝工法によるウレタン塗膜防水部分があったが、脱気筒の設置がなく防水層の脹れにより緩衝材の継目で断裂。面積が小さいから不要と考えられたのであろうが、実際には内部に水蒸気の凝縮があるため、脱気筒は必要だ。特にルーフバルコニーでは、パラペットに立上り用の脱気金物があったが、一部では密着施工された排水溝があって脱気金物を取り付けていないところがあったため、今回床面に追加設置を行った。

 その他の漏水部では、打ち継ぎ部の目地直上に巣穴の発見やエキスパンションジョイントの外壁ひび割れによるものがあった。これらは、本来ならば第1回目の工事の時に注意深く現場確認調査を行っていたら恐らく発見できた不具合と考えられ、修繕にあたる工事中の詳細調査の重要性を示唆しているように思う。

既存防水層裏に雨水の浸透

改修後の屋上防水

◆通路階段の安全性配慮

 もう一つの重点改修項目には、各所にある通路の階段の安全性を如何に上げるかということであった。階段勾配は、45度近くあり、しかも踏面の寸法が狭いため足を踏み外しやすい構造になっていた。階段の段数を増やし勾配を緩やかにできればよいのであるが、その余裕すらない斜面地であるから階段の改善はあきらめ、手すりの改善充実を図った。

 現状の手すりは、48・6φのステンレスパイプでできており、手で握りにくい太さであった。冬季には冷たくて触りたくないという意見が多く、必要な手すりの機能を果たしていないのである。手すりを交換すれば足りることではあるが、できるだけ資源の無駄をしない観点から既設の手すりをそのまま下地支柱として利用し、その両側に人口木材による38φのリブ付手すりを取付けることにした。

通路階段の手すり設置

新設付加した手すり

◆まとめ

 建物の性能のうち、漏水だけは我慢できないものである。防水改修を行って一定期間は持ち堪えても、22年で2回の防水改修を行うことになったのは、それなりの理由がある。それは前回の防水改修で、防水納まりに対する配慮や必要な手立てを施していなかったことなど通り一遍の改修にとどまったことが影響しているものと思われた。特にシーリング工事においては、撤去して打ち替える仕様になっていたが、撤去せず増し打ちになっていたり、塗膜防水層の厚さが所定の厚さでなかったり、最近、このような改修施工欠陥の露見が多いように思う。(設計・監理 (有)鈴木哲夫設計事務所 鈴木哲夫)

<アメニティ新聞317号 2009年2月掲載記事>