超小規模マンションの第1回大規模修繕工事:2018年1月号掲載

(設計・監理/水白建築設計室 担当者)

 本号で紹介するのは、総戸数14戸という極めて小規模なマンションの工事事例です。小規模マンションのメリットを生かし、デメリットを極力「補正」することを考慮しながら、設計監理方式を採用して実施した、第1回目の大規模修繕工事の事例です。

1.管理組合の取り組み

 鉄筋コンクリート造4階建、総戸数14戸のBマンションは、平成15年に竣工した建物で、平成27年に修繕委員会が活動を開始し、1回目の大規模修繕工事の検討に入っていった。複数の工事会社から、工事の見積書を取得してみたものの、工事の範囲や必要性、また工事費用の妥当性等が整理できなかったことから、日住協の大規模修繕支援制度を活用、設計監理方式を採用し、改めて大規模修繕工事の計画を進めていった。

 建物調査の段階では、区分所有者へのアンケートを実施したほか、全14住戸のバルコニーへの立ち入り調査を実施した。これには、不具合と改善要望箇所の把握だけでなく、工事の計画段階から、大規模修繕工事に関する知識や「心構え」を、区分所有者全員に周知する意味合いもあった。調査を担当した設計監理者が、すべての所有者とコミュニケーションを取れたことは、その後の工事が円滑に進んだ要因のひとつにもなったが、全戸調査は小規模マンションゆえに実現できたことでもあった。

2.工事概要

 今回の工事では、一般的な1回目の大規模修繕工事で実施する工事項目(躯体やタイルの不具合部補修、外壁塗装、バルコニー等の防水)に加え、以下の改修工事も実施した。

○屋上防水工事
露出アスファルト防水で仕上がっていた建物の陸屋根部分は、一部に防水層の膨れ等が見られたものの、全面的な改修の必要性はないと判断した。しかし、部分補修と保護塗装のみでは、工事による防水保証が出ないことから、長期修繕計画に沿う形で、全面的な改修工事を実施した。一方で、保護コンクリートが打設されているルーフバルコニーについては、不具合が見られなかったことから、長期修繕計画上は改修することとなっていたものの、本工事では補修程度に留めた。また勾配のついたアスファルトシングル葺きの屋根についても、洗浄と保護塗装のみを施した。

○バルコニー・共用廊下等防水工事
塗膜防水と防滑性塩ビシート張りによる複合防水が施されていたバルコニーや共用廊下、そして階段部分の床面は、シートの部分的な剥がれが見られたこともあり、全面的な改修(シートの張替)を実施した。工事の計画段階では、仮設足場が不要な共用廊下や階段部分は「先送り」することも検討したが、工事予算の範囲内に収まることが見込まれたため、本工事で実施した。

○各所金物等工事
今回の大規模修繕工事では、改良・改善を目的に、金物や設備の工事を実施した。工事に仮設足場が必要な、雨樋の改良工事がそのひとつで、勾配屋根からの雨水(雨だれ)により、建物の外壁面が局部的に汚損していたり、共用廊下や玄関前に吹き込んだりといった、雨樋の未設置箇所に不具合が多くみられたことから、各所に軒樋を「増設」した。

 また共用部分の照明器具は、すべてをLEDタイプの器具に更新した。従前の照明器具は、「常時点灯」と「夜間のみ点灯」の二つの器具(パターン)に分かれていたが、日中、明るいにもかかわらず常時点灯となっている箇所があったり、逆に常時薄暗い箇所が夜間のみ点灯となっていたりするなどの不具合があったことから、器具の配線経路を確認した上で、点灯のパターン変更もあわせて実施した。

 さらに、「出し入れしづらい」との指摘が多くあがっていた自転車置場については、間隔の短い固定式の駐輪ラックを撤去し、垂直上下動式(上段)とスライド式(下段)を組み合わせた上下二段式の新しい駐輪機具に取り替えた。スペースの関係上、駐輪可能台数を増やすことはできなかったが、駐輪機の選定にあたっては、管理組合の理事や修繕委員の方々が、マンションにある全ての自転車の大きさや形状を調査し、14世帯全ての自転車が納まるように留意しながら検討していった。このことも、小規模マンションゆえに実現できたといえるかもしれない。

「たれ流し」状態だった箇所に軒樋を新設

改修された自転車置場

3.工事期間中の検討・対応

 昨年8月末に着工した工事の期間中は、管理組合・日住協・施工会社・設計事務所の4者による打合せを月1回程度の頻度で実施し、色彩決定や追加工事実施の可否、居住者からの問い合わせや要望の対応などを検討した。なお、最近の1回目の大規模修繕工事で多く見られる、大量のタイルの不具合(浮き)は、本マンションでは見られず、また調査段階で把握していたシーリング材の硬化不良(軟化)についても、想定数量に近かったこと等から、当初の工事請負契約金額の範囲内で概ね納まる形となった。

 小規模マンションは一般的に、工事費が割高になるといわれる。そのため本工事では、施工会社の現場代理人を「常駐」から「スポット」管理とし、人件費を抑えることとしたが、そのことが居住者対応等に問題を生じさせる可能性もあった。経験豊かな技術者を現場代理人として配置した施工会社の対応、そして何よりも、全ての組合員が一丸となって工事に望む姿勢(体制)を作っていった管理組合の協力もあり、大きなトラブルもなく、本工事は12月初旬に完了した。

建物外観

設計・監理/水白建築設計室
施工/株式会社リニューアルウィングス

(2018年1月号掲載)