暴力団員らしき人がBさんの居室を借りて入居、出て行ってもらうことは可能か? (2007年11月号掲載)

Q.

最近マンションの近くで発砲事件がありました。私達のマンションの1室にも複数の暴力団らしき人が出入りしています。部屋の持ち主はBさんなのですが、この部屋をAに貸しているそうです。もしマンション内で発砲事件などがあったら大変なことです。Aに出ていってもらうことは可能ですか、また、どのような手続きをとれば良いのですか?

 

A.

区分所有法6条1項は「区分所有者は~建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない」と規定。Aは区分所有者ではありませんが、この規定は賃借人即ち占有者にも適用されます。では、この場合「共同の利益に反する行為」があると言えるでしょうか?

暴力団らしき人物が複数出入りしていることから、住居ではなく事務所として利用されていると思われます。通常は規約や使用細則に事務所としての使用を禁止する規定があるはずですが、そのような規定が無くても暴力団事務所に使用していることが明らかで、そのことから抗争事件に巻き込まれる危険性があれば「共同の利益に反する行為」に該当します(但しAが暴力団員であるというだけでは理由にならないことに注意して下さい)。では、「共同の利益に反する行為」が存在する場合どのような手段がとれるのでしょうか? 区分所有法は57条で違反行為の禁止請求、違反行為の結果の除去、違反行為の予防措置等の請求を、58条で使用禁止の請求を、59条で区分所有権の競売の請求を、60条で占有者に対する引渡の請求を認めています。

Aは占有者ですから、57条に基づいて事務所として使用しないことを請求できますが、Aが暴力団員だとすれば素直に従うことは想定しがたいでしょう。その場合は60条に基づく請求が可能です。即ち、訴訟を提起して、AとBとの賃貸借契約を解除して、管理組合が居室の引渡を受けることが出来ます(もっとも、引渡を受けた部屋はBさんに返還することになります)。なお、訴訟を提起する場合は総会決議が必要です。また、総会決議に際しては、事前に賃借人(A)に対して、総会の内容を通知して、総会での弁明の機会を与えなければなりません。さらに、総会決議には区分所有者及び議決権の各4分の3以上の賛成が必要です。60条の規定はもともと暴力団等の不良入居者を念頭に置いて規定されたものですが、対象は暴力団に限られません。比較的新しい例としてマンションの一室がオウム真理教の教団施設として利用されていたケースで、区分所有者の共同の利益に反するとして、賃貸借契約の解除と専有部分からの退去請求が認められた裁判例もあります。

60条は賃借人を強制的に居室から追い出すことが出来るという非常に強い効力がありますから、その判断は裁判所でも慎重になされます。具体的にどのような不利益が生じているのか、具体的な事実(関係者が多数出入りしている。違法駐車をしている。居住者のボディーチェックをしているなど)を集めて記録しておく必要があります。

 

回答者:法律相談会 専門相談員

弁護士・石川貴康

(2007年11月号掲載)