1.はじめに

1.300万戸を超える、わが国の分譲マンション

 わが国におけるマンションの戸数は、建築着工統計等の資料によれば、平成10年(1998年)の時点において約352万戸となっています。また、平成12年(2000年)末では385万戸と推計されています。同時に、平成10年の時点におけるマンションの経過年数(マンション年齢)をみると、10年を経過したものが約184万戸(全体の約52%)、15年を超えるものは127万戸(約36%)、20年を超えるものが72万戸(約20%)となっています。更に、平成12年度で予測すれば、20年を超えるものは93万戸(全体の1/4)と推計されます(但し、これらの全てが住居として使用されているかは、定かではありません)。今後も更に古いマンションが増加していきます。
 一般的にマンションの大規模修繕は、10年を経過する頃から外壁・屋根防水等(屋根防水については、その仕様・工法により改修実施時期にかなり巾があります)を中心に始まり、15年を超えると設備関係の配管・機器の更新がこれに加わってきます。更に、20年を超えると、第2回目の外壁等大規模修繕の他、専有部分を含めた浴室の防水、玄関扉・窓サッシュ等の建具関係の更新も必要となることから、これらに要する修繕の費用はかなり多額なものとなります。特に、設備関係の配管更新、エレベ-タ-機器の更新は高額なものであり、そのための修繕積立金が、従来の15年目頃までの積立額の2倍を超えるマンションもみられます。

2.長期修繕計画、過去の経緯とその内容

(1)長期修繕計画、過去の経緯

 長期修繕計画や修繕積立金の重要性が、マンション管理組合に認識され始めたのは、20年前の昭和50年代半ば(1980年)頃からと思われます。それ以前にも郊外団地型の比較的規模の大きい管理組合では、独自の長期修繕計画を持ち、それに基づいて修繕積立金を設定しているものもありました。しかし、その普及率は極めて低く、また、修繕積立金額も低額であったようです。50年代後半に入り、あちこちのマンションで外壁を中心とした大規模修繕工事が行われてきましたが、工事費に対し積立金の蓄積額が十分でなかったことから、民間金融機関よりの借入れ、又は組合員からの一時金の徴収等で賄った組合が多く見られました。この当時は、現在のように公的資金の融資制度(住宅金融公庫等のマンションリフォ-ムロ-ン)もなかったことから、工事資金不足のため工事の規模・範囲を縮小したものさえあります。
 長期修繕計画・修繕積立金制度の普及は、平成5年度の「建設省マンション総合調査」によれば、長期修繕計画の策定率は73%に達し(平成11年1月に発表された、東京都の「分譲マンションに関する実態調査」結果によれば、計画有りは69%)、修繕積立金制度の普及は90%を超え100%に近いようです。しかし、現実にはその内容にかなりバラツキがあるようで、長期修繕計画が作られてはいても、十分に機能していない(積立金計画とは関連しないもの)ものもあります。また、修繕積立金の額にもかなり巾があり(6千円/月・戸未満が37%、1万円/月・戸以上は27%、前述の東京都調査では、7千円/月・戸未満は44%、1万円/月・戸以上では23%の結果が出ています)、経過年数にもよりますが、半数近くが未だ低額のものと考えられます。

(2)長期修繕計画の策定タイプ(どの様な組織で作られているか)
 長期修繕計画は、様々な組織で作られています。最近ではマンション分譲時に分譲会社(又は子会社の管理会社)が提供しているものもありますが、一般的には大きく次の4タイプに分けられるようです。
 A マンションの分譲時に、分譲会社が作ったもの。又はその後関連の管理会社により作られたもの。
 B (財)マンション管理センタ-の「修繕積立金算出マニュアル」による長期修繕計画の策定。
 C 建築設計事務所等の建築の専門家により策定されたもの。
 D 管理組合が、自分たちの組織で策定したもの。
 他にも、似た組織があるかもしれません。しかし、概ねこれらの組織と何らかで関連していると思われます。これらの具体内容は、下記のものとなります。
 Aはマンション分譲の大手デベロッパ-に多いと思われ、自社で分譲している標準設計によるマンションの長期修繕計画で、建物の仕組み等が全てわかっていることから、その内容(修繕項目等)は的確に把握されるはずです。
 Bは、コンピュ-タ-による「修繕積立金算出マニュアル」により、長期修繕計画の主要工事の概算工事費を積算することで、修繕積立金を算出し、それに伴って大まかな長期修繕計画を作るものです。個々のマンションの図面調査、現地調査・建物診断等は行わないため、策定費用も廉価なもので、長期計画の無い組合での修繕積立金設定の目安には役立つと思われます。
 Cの建築設計事務所等で作られるものでは、当然建物の仕組みだけでなく、長期修繕計画についての知識を有する専門家が担当しなければなりません。これらの建築家の策定するものは、個々のマンションの図面調査・建物診断から始まることから手間もかかり、A・Bに比べ一品料理的なものと言えます。
 Dは、管理組合組織がしっかりした活発な組合に多いようで、自らの手で長期修繕計画を策定するものです。但し、入居後ある程度管理組合運営が軌道に乗っていること、入居当初より何らかの長期計画があり、その「見直し」を兼ねて新たに策定するもので、公的分譲の団地型の組合に見られます。これらについても組織の中に専門家が参加していることが前提となるでしょう。
 以上、大きく4つのタイプに分類しましたが、A・Bでは入居当初より10年目頃までの、比較的経過年の浅い時期には有効と考えられます。しかし、年を経るにしたがって、マンションの傷みは異なってくるため、ある時期に内容についての細部にわたった検討・見直しが必要となるでしょう。Cは最もオ-ソドックスな方法ですが、専門家でも長期修繕計画に対しての認識・理解度が異なることから、管理組合と十分協議の上、作業を進めることが大切です。Dでも、何らかの形で専門家が参加していることが多いようですが、全く新しいものを初めてつくる場合には、他の組合のものを参考にする場合があります。この時、気をつけなければならないことは、マンションの規模、建物形態・仕組み、立地条件等が、似ているマンションの組合のものを参考にすることです。分譲会社が同じであれば似たものがあるはずです。全く異なったタイプのものではあまり参考になりません。間違ったものになる危険があります。いずれにしても建物の仕組みなどを見分けることは、専門的な知識を必要とすることから、専門家の参加が望まれます。

3.最近の「長期修繕計画」をめぐる動き

(1)優良中古マンション融資制度
 平成6年10月より、住宅金融公庫にて「優良中古マンション融資制度」が設けられました。これには「優良中古マンション評価基準」があり、この中の維持管理評価の内容には、長期修繕計画、修繕積立金、大規模修繕の実施等についての基準が定められています。優良中古マンション融資制度は、中古マンションを購入する際に、そのマンションが一定の基準を満たしていることにより、Aランク、Bランクに分けられ、割増し融資額がある制度です。(但し、購入者が金融公庫より借り入れる場合に適用されるものです)  この一定の基準については若干議論の余地もありますが、マンション全体の維持管理体制の整備と管理水準の向上を促進するものとしての評価もあります。いずれにしても、今後これらの制度の普及が考えられ、管理組合の中には、この制度を前提とした長期計画の策定、見直しを計る動きもあるようです。

(2)中高層共同住宅標準管理規約の改正
 平成9年2月には住宅宅地審議会より「中高層共同住宅標準管理規約」(昭和57年に答申されたもの)の見直しが行われ、その主要改正内容の中に「(1)適切な大規模修繕を実施していくための前提となる長期修繕計画の策定を、管理組合の業務として位置付け」られたことが上げられています。更に、その解説では「マンションにおける居住水準を維持し、良好に維持管理していくためには、計画的な大規模修繕を適切に実施していくことが重要であるが、かならずしも十分に行われているとは言えない状況にあることから、大規模修繕を円滑に進めていく上での前提となる長期修繕計画の作成又は変更に関する業務を、管理組合の業務として規定する(単棟型第31条等)」と説明しています。これらの内容については、各地でセミナ-、説明会等が開催されていますが、あくまで「標準管理規約」であることから、自分たちの居住するマンションの「管理組合」にあったものとしておく必要があるでしょう。

4.長期修繕計画の策定にあたって

 本稿は「長期修繕計画の手引き」をテ-マとしています。策定の具体方法と内容、策定事例等を資料としても、これらによって「長期修繕計画」がだれでもすぐに策定できる、といった性格のものではありません。基本的には専門家の協力を得なければならない内容も多くあります。したがって、ここでの目的は、「長期修繕計画」について管理組合として、また居住者(区分所有者)として、最小限どの様なことを知っておかなければならないか、にあります。具体には、以下の4つのポイントに集約されます。
 A 長期修繕計画とは「どの様なものであるのか」を知ること。
 B 住んでいるマンションの長期修繕計画が「どの様な内容となっているのか」を知る。「自分逹のマンションに即した内容のものであるか」をチェックすることが必要。
 C 「長期修繕計画」と「修繕積立金額・積立て計画」との関係が、明確になっているか、を知る。
 D 「長期修繕計画」を含めた維持管理計画・運用が適切になされているか、計画が生かされているか、を知る。
 過去に行われたマンションの維持管理に関しての調査結果を見ても、居住しているマンションに長期修繕計画が「あるか、ないか」の設問でも、「不明」の回答があります。これらは管理組合の役員であっても「よくわからない」といった実状があることを示しています。また、「ある」としている組合でも、その内容が十分に理解されておらず、修繕積立金とは無関係に単に「ある」だけの内容のわからないものもあるようです。したがって、まず第一に重要なことは、前述のポイントA~Dまでの内容を十分に把握することでしょう。

(文責 一級建築士・関東学院大学工学部 田辺邦男)

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