マンション再生

 マンションの再生という言葉が使われるようになりました。この再生という概念は、従来の修繕や改修とどう違うのか、建替えやコンバージョンとの相異など、わかりやすく解説していただきます。
今回からシリーズでお届けします。

田辺 邦男
関東学院大学
日本マンション学会理事

はじめに

 集合住宅がマンションという名称で分譲され始めてから、既に40年以上が経過している。自己が所有する建物を維持管理するという行為は、戸建て住宅ではあたりまえのことであるが、複数の所有者(個人)が一つの建物を共同所有・管理する例はマンションを除いて数少なく、その歴史も浅い。

 私がマンション住まいを始めたのはちょうど30年前からである。それ以前は当時の住宅公団(その後何回か名称が変わっている)洋光台団地の賃貸住宅であったが、知人が公団分譲のマンションを購入、引越しの手伝いをしたことがきっかけとなった。本紙にも最近掲載された横浜の南永田住宅である。千戸を超える10・14階建の高層団地であるが、丘陵地に建てられ傾斜面をうまく利用した配置と屏風状の建物形態が特徴となり、当時は建築の専門誌にも掲載された団地型マンションである。現在、第2回目の大規模修繕を終え、外観(色彩計画)、玄関・エレベ-タ-ホ-ル、廊下・階段廻りも全てグレ-ドアップされ、新築マンションに生まれ変わった。「マンション再生」の第一歩といえる。

 この団地で、初めて管理組合役員の経験をしたのは、入居5年目の時であった。管理組合という耳慣れない組織で一体何をするのか、しかも副理事長である。全くの素人から始まったが、1年間の任期(全員交替)のうちに、何とかその内容を把握・理解できるようになった。同時に、次年度に役員が全員交替してしまい、また、管理会社に全てお任せでは、いろいろ問題があると気付いたのもこの頃であるが、この状況は、今でもあちこちのマンションで繰り返えされている。このような経験を踏まえ、翌年度はほとんどの役員が留任、提案者の私は結果として理事長をさせられることになった。

 その後数年間、現在の住まい(これも公団の分譲であるが、低層のテラスハウスを主体とした236戸の団地型マンション、今考えると、私が家庭を持ってから住まい購入に要した費用の大部分は、公団に支払ったことになる。)に移るまで理事を続けた。この間に、私としては初めての長期修繕計画策定に携わっている。当時は、マニュアルもお手本的なものもなく、試行錯誤で作成したものであった。長期修繕計画の策定手法については、以前、本紙に連載したことがあり、また、セミナ-、講演会等も何回となく行ってきたが、この時の経験が私のマンションの維持管理に関する研究の始まり、23年前のことである。

 マンションの長期修繕計画の策定状況については、本年、国交省より発表された「平成15年度マンション総合調査」結果によれば、80%を超える値となっている。しかし、その内容は定かでなく、との程度のレベルのものか、また、修繕積立金との検証となると、若干、疑問が残る。更に、これらの調査に協力できるマンションは「優等生」的な存在と思われ、当然のことながら維持管理への関心も高い。一方で、最近の首都圏における他の調査によれば、長期修繕計画の策定率は60%に満たない結果が出ており、しかもその中には30年を超えた高経年マンションもかなり存在しているといった実態もある。

 ここ2~3年の間に、マンション管理適正化法、マンション建替え円滑化法、区分所有法改正に伴う標準管理規約の改訂等、マンションの維持管理に関連する様々な法の整備がなされてきた。しかし、その内容については、管理組合の役員であっても、あんがい知っていないことが多い。特に、マンション管理適正化法では、管理組合の適正管理への努力義務があり、また、指針では長期修繕計画の策定を基本的事項の一つとして挙げているが、その認識も未だ低いのではと思われる。

 マンションの維持管理には様々な内容があり、その中心的なものに大規模修繕が位置付けられているが、高経年マンションでは、今後その内容が課題となる。近年、「マンション再生」という新しい言葉を耳にするが、当然、再生の手法の一つに「建替え」が挙げられる。しかし、一方で大規模修繕でのグレ-ドアップによる長命化も、再生の一手法と考えられる。

次回からは、このマンションの長命化を図るための「マンション再生」と、その手法と実施について、過去に行われた大規模修繕工事の経緯・内容を含め、私の考えを述べてみたい。

南永田住宅

-マンション再生-その計画と実施 2
 わが国での最初の分譲マンションは、民間では1956年の四谷コ-ポラスといわれている。5階建て28戸の比較的小規模のものである。 これより早く東京都が分譲した宮益坂アパ-トは11階建てであり公的分譲の第1号となる。 また、同時期の1955年には住宅公団(現在の都市基盤整備公団)が設立され、団地型の分譲マンションが首都圏で売りだされた。 分譲マンションの供給が本格的に始まったのは1960年代の前半からで、この時期のものが第1次マンションブ-ムと言われている。 その後1990年代後半のものを第6次ブ-ムとしているが、 年代別の供給戸数を見ると1988年以降は着工統計を見る限り一時期を除いて毎年の供給戸数は15万戸を超えている。 地域による差もあるが供給戸数は以前の2倍以上の年もあり、2002年の段階では全国で427万戸を超えるストックとなっている。

 また、1998年に行われた住宅・土地統計調査によると、首都圏の大都市部(京・浜・葉)では共同住宅が半分以上を占めており、 今やマンションが都市型住宅として完全に定着したことを示している。

6年後には30年マンションが150万戸に

 一方、これらのマンションを経年でみると、2000年(平成12年)の時点で全ストックの6割が10年を経過し、 20年を超えるものが全体の1/4(約100万戸)となる。これが6年後の2010年には20年を超えるものは215万戸、 その内150万戸が30年を超えるマンションとなる。

国土交通省は、2002年(平成14年)に建替えについての技術的指針として「マンションの建替えに向けた合意形成に関するマニュアル」 及び「マンションの建替えか修繕かを判断するためのマニュアル」を作成し公表している。 また、建替え円滑化法の一部改正時には、マンションの寿命は30年なのか、40年なのかといった論議もなされてきた。 しかし、現実には建替えは様々な問題を抱えており、困難なマンションが多い。建替えが不可能な市街地型の高層マンション等では、 建物をいかに長持ちさせるか(長命化)と、経年により住宅としての機能が陳腐化してくる高経年マンションを、 どのように再生させるかが課題となっている。

国交省が「再生マニュアル」公表

 つい先日、6月の始めに国交省は「改修によるマンション再生マニュアル」を公表した。 このマニュアル作成には、前述の「建替え円滑化法の一部改正」の法律案に対して、国会で付帯決議がなされたことが前提にある。 その決議の中に「良質なマンションストックの活用等の観点から、増改築による既存マンションの再生手法の普及を図るなど、 マンションの長寿命化が図られるよう、積極的な取り組みを行うこと」という内容があり、 その具体案が今回の「再生マニュアル」へとつながったようである。

 今回公表された「マンション再生マニュアル」をいかに使いこなすかで、マンション再生「長寿命化」の可能性を探ることができる。 しかし、一方で「再生」に至るまでの日常のメンテナンスや、過去の建築・設備等の大規模修繕がどのように行われてきたかも、 重要なポイントになることは言うまでもない。

[図-1.マンションの築年数別ストックの推移]

-マンション再生-その計画と実施 3
マンションは、人間の生活の器「シェルタ-」である。外は凍りつく真冬の寒さであっても、一歩、家の中に入れば寒さをしのぐ暖かさがある。 そして、水が出る、電気がつきテレビも見られる。ガスにより炊事・入浴ができる。 現代では、これら生活の器とライフラインのどれ一つが欠けても、すぐ日常生活に支障をきたす。 様々な機能を持つ住宅という「器」は正常に機能していることが「あたりまえ」と考えられており、 そのために日常的管理に始まり、計画的な修繕が行われている。 しかし、現実にはこのあたりまえの「管理組合としての業務」が意外に知られていないことが多い。

維持管理とは何か

今回は、この維持管理(メンテナンス)という行為の中味は何か、また、その用語には定義があるもの、 曖昧いなものなど様々であるが、これらを私なりに整理したものを[表.維持・保全の内容と分類]に示している。 以下に、それぞれの定義と具体内容について解説する。

増築*4
※都市計画法・建築基準法等の法令での所要条件の確保、合意形成、確認申請等の手続き

建替*4
※同上 一定要件での以上での集会決議 棟別建替え 全棟建替え

*1:マンション規模により会計区分が異なる場合もある。
*2:計画修繕工事の長・中・短期の修繕周期は、建物・部材の仕組みにより異なるものがある。
*3:団地型マンションが対象となるが、外構・工作物として項目立てする場合もある。
*4:増築・建替え等は維持管理とは次元の異なるものであるが、マンション再生の視点から加えている。

● 保守・点検
建物の機能を維持するために、建物各部の不具合や設備機器等の作動に異常がないかを定期的に検査、 消耗品の交換や作動調整等を行うこと。また、点検結果を修繕計画に的確に反映させ、 更に、修繕の適正を期するために行う維持保全の基本的業務で、以下の内容に分けられる。

日常的点検・補修:日常的点検は、管理員または居住者により建物等の外観目視、及 び簡単な工具・器具を用いた打診等により行うもの。補修は保守(手入れ)と関連し、 日常点検と同時になされることが多く、不具合箇所の軽微な修繕である。

具体内容:管理会社に日常管理等を委託しているマンションでは、委託内容に定期的な巡 回があるが、管理組合の役員がこれらを行っている場合もある。目で見る範囲であるため限界はあるが、主に雨漏り、コンクリ-トの亀裂、タイルの亀裂・浮き等である、異常に気がついたときには、専門家に調査を依頼し対応を検討することが必要である。

定期点検・清掃:専門技術者による定期的な点検、主に設備関係機器等が対象となる。「建築基準法」「消防法」等の関係法令で義務付けられているものもあり、点検周期や方  法を定めている。清掃も同様に「水道法」による規定がある。

具体内容:最も身近なものに日常生活に必要な飲料水が挙げられ、水道施設の検査と報告が義務付けられている。また、高層マンションではエレベ-タ-の保守・点検、消防設備(火災報知・消火栓等)の定期点検と報告が必要となる。更に、給水施設の受水槽・高置水槽の一定以上の規模のものは、定期的な清掃が義務付けられている。その他、ガス・電気設備等にも一定の点検等の規定がある。
これらの定期点検・清掃は法律で義務付けられているものの他、給水施設のポンプ等は正常に作動しているかのチェックが必要であり、また、専有部分を含めた排水管も定期的な清掃が必要である。日常点検・定期検査等は管理会社・専門会社等に委託し行われるが、各点検終了時には、その結果について速やかな報告を受ける体制づくりが求められる。点検で不良箇所が発見された場合は、その原因を調査し早急に対応しなければならない。また、その程度によっては、長期修繕計画の修正を図らなければならない場合もある。

-マンション再生-その計画と実施 4
マンションの維持・保全
『修繕工事』

 前号では表[維持・保全の内容と分類]のA.日常保守・点検の項を解説した。今回はB.修繕工事の内容について解説する。「修繕」という用語は一般的に以下の内容で定義されている。

● 修繕
建物各部の劣化、性能・機能の低下が進んだ場合には、修繕を行うことになる。修繕は、部材や設備の劣化部の修理・取替えを行い、劣化したその部分の性能・機能を実用上支障のない状態まで回復させることで、一般的には、建物の建設当初の水準にまで回復させることが基本的な目標となる。
 修繕工事は大きく三つに分類される。一つは修繕の規模(大・中・小)による分類、次に実施時期・方法(事後[経常]・予防[計画])による分類、更に修繕工事の内容(修繕・改良)による分類である。これらの分類は全く別個のものではない。一つの修繕工事を、その内容によりこのように分類しているもので、これらを混同していることが往々にしてあるので、整理したものである。

■ 規模による分類

 一般的によく用いられる用語に「大規模修繕工事」というものがある。大・中規模の内容についての定義はないようであるが、どの程度の規模のものを指すかは、マンションの戸数規模、修繕積立金の予算規模とも関連する。大規模修繕という用語を定義するならば、修繕工事の中で最も時間と費用を要するものであり、建物の外壁工事や屋根防水工事、給排水設備の配管更新等がその代表的なものとなる。とくに、外壁等の工事では、単に外壁廻りのみでなく関連する工事(バルコニ-・廊下・階段床防水、鉄部塗装等)も同時に行われるため工事期間は長く、工事費用も大きい。また、日常生活を営みながらであるため、居住者への影響も大きい。これらの要因が大規模修繕と呼ばれ、マンションにとって重要な工事として位置付けられる所以である。管理組合の中には、これらを「特別修繕」として、他の工事と別扱いにしているものもある。更に、長期修繕計画としてこれのみを取り上げているものもあるが、大規模修繕工事も計画修繕の一環であり、他の修繕対象項目とどのように関連させるかが、長期修繕工事のポイントともなっている。

外壁の大規模修繕工事
外壁・屋根廻りの躯体改修

■ 実施時期・方法による分類

修繕には、劣化・機能低下等の発生の都度に行う経常修繕と、一定の周期(経過年)ごとに計画的に行う計画修繕がある。これらは以下の内容で定義される。

1 経常修繕(日常修繕、小口修繕と呼ぶ場合もある。)
 日常的に生ずる汚損・破損した部分(部材・部品)について、その都度部分的に行う修繕等で、一般的に小規模、比較的費用の少ない範囲で修繕ないしは取替えを行うもの。
・事例:共用部分の不具合箇所、事故等による緊急を要する修繕、雨漏り等の部分修繕が挙げられる。また、設備関係では照明器具の部分交換、給水設備等の機器の故障、部品交換等も小規模な場合は経常修繕で行われるが、これらは年間の管理費の経常修繕費(または営繕費)の予算規模によっても異なり、小規模のマンションでは修繕積立金で支出する場合もある。

2 計画修繕:
 建物の維持保全は、経常修繕の積み重ねだけでは不十分で、建物全体で一斉に行う修繕が必要となる。したがって、部材等の耐用を考慮しある一定の修繕周期をもとに、具体的な損耗・劣化状況を確認の上、計画的に修繕を行うもの。当然、改良も同時に考慮することになる。計画修繕を長期にわたり作成したものが長期修繕計画となり、そのための費用を準備しておくことが必要で、これが修繕積立金となる。
 計画修繕は、建物を構成する部位(建物・設備の仕組み)・部材により、短期間(4~6年)周期で繰り返し行われるものと、長期間(20~30年に1回あるもの)周期のものがあり、その中間に中期間(10~15年)のものが設定される。しかし、計画修繕はあくまで予防修繕的なものであり、経年による劣化状況を定期的に観察していく必要があり、工事の実施はこの検証によって決められる。

庇上げ裏面の鉄筋露出現象
躯体改修工事中のもの

-マンション再生-その計画と実施 5
 前号では修繕工事の実施時期・方法による分類として、経常修繕と計画修繕について解説した。計画修繕では短期・中期・長期的なものがあり、これらを一定期間(20年以上)まとめて策定したものが、長期修繕計画となる。
 「表-2」は計画修繕項目と修繕周期の目安である。建物はさまざまな仕組みを持ち、立地条件や構成材料、また、建物経年により傷みの状態は異なり、耐久性にもかなり巾がある。更に、建設時の施工の良否、日常のメンテナンス「手入れ」の仕方によっても異なる。したがって、工事の実施前には当然「建物診断」で状況の確認が必要となる。

※計画修繕項目・周期は、マンションの仕組み(建物形態・構造、設備)によって異なる。したがって、本表の周期は大まかな目安であり(材質等によってもかなり耐久性に巾がある)、また、項目についても更に細分化されているものもある。
※計画修繕の中には足場架設等が必要なものもあり、また、建物等の耐久性・経済性から、同時に工事を行なっておくことが望ましいものがある。これらの計画修繕項目を☆印としている。

※立地条件、構成材料により特に周期に幅のあるもので、実施前に劣化状況等を調査・診断により、判断することが望まれるものを、★印としている

 これらの計画修繕とは別に、事故・災害による復旧・修繕工事が挙げられる。これを「事故修繕」と呼び「事後」の修繕で応急修理的なものも含まれるが、事故等の状況によっては管理費で賄えるものと、工事費に多額を要する場合には積立金よりの支出となる。

■ 修繕工事の内容による分類
 修繕という言葉の意味はかなり巾ひろく、一般的にはあまり限定されずに用いられているようである。しかし、前号でも述べたように、基本的には建設当初の水準にまで回復させることを目標とした修繕の行為と定義付けられる。また、この中には日常的に行われる修繕と、計画的に行う修繕がある。計画修繕は将来の建物・設備の経年劣化を予測したものであるため、内容のグレ-ドアップも検討しなければならない。すなわち、改良・改善の要素を加える必要がある。特に、高経年マンションでは、建物の各部位で既存性能を改善する改良修繕=「改修工事」が主体となってくる。これらの内容も計画修繕の一環であるが、従来の修繕工事より高額な費用を要するものがあり、「特別修繕」として位置づける場合もある。

● 環境整備
 環境整備という言葉もかなり巾ひろい。居住環境・生活環境という用語では、マンションの建物、屋外を含む全てが対象となるが、「表-1」に示した環境整備は屋外環境のみを対象としている。したがって、ここでは建物以外の広い屋外スペ-スを持つ団地型のマンションが該当する(1棟型のマンションでも屋外施設を持つが、団地型のものに比べ費用面の相対的比率は低い)。
 この項での対象は外構整備・植栽等となるが、植栽関係は、長期修繕計画の対象にせず、一般的には園芸費として日常管理で賄うものが多い。しかし、道路舗装・埋設配管などの整備と直接関係することから、また、外構整備(公園・遊戯施設等)とも密接な関係を持っている。したがって、ここでは屋外環境整備という内容で位置づけている。 修繕項目の具体的なものとしては駐車場・駐輪場・遊戯施設等の整備が中心となる。 増設・新設も対象となるが、これにはかなりの費用を要する場合もあり、特別会計として収支のバランスを計ったものとしておく必要がある。特に、機械式駐車場のメンテナンスでは経年劣化により高額な費用を要しており、修繕計画とそのための費用は、他の会計と区分した「独立会計」としておくことが望まれる。

-マンション再生-その計画と実施 6
 本シリ-ズ第3回目の「表.維持・保全の内容と分類」の最後の項目に、増築・建替えを設けている。これらについては維持保全とは本来次元の異なるものであるが、マンション再生(特に、建物の生活空間の改善)という視点よりみれば、これらも「再生」の範疇と考えられる。また、近年マンションへのコンバ-ジョン(用途変更)の事例もみられる。したがって、今回より増築・建替え・コンバ-ジョン等について、その具体手法は別として過去の状況や問題点について、事例を含め考えてみたい。

「マンションの増築」

 高経年マンション、特に大都市郊外の団地型マンションの中には、3DK・専有面積50m2前後の間取りの、現在の住宅規模水準からみると小規模のものが多くある。これらは新婚世帯や子供の小さい時期、または子供が独立した高齢者世帯にとっては適当な広さであるが、子供が成長期の世帯にとっては狭さの問題が出てくる。若年新婚世帯、高齢者世帯のみが居住するといった偏った人口構成となると、良好なコミュニティが形成されにくくなり、将来、役員のなり手不足や管理水準の低下といった問題がでる可能性もある。これらの問題は別として、ここでは過去に行われてきた増築事例を振り返ってみる。

■ 首都圏におけるマンション増築の事例

 既存マンションを増築し住戸面積を拡大しようとする運動は1980年代からである。1965~1970年代前半に旧住宅公団が分譲した中層階段室型(5階建て壁式構造等)で構成された郊外団地マンションで、分譲後10~15年を経過した時期であった。住戸タイプは当時公団の標準設計あった専有面積50m2前後、南面に3室を持つ3DKで、日当たりや風通しのよいプランである。しかし、入居後10数年を経た段階で子供が成長し、就寝分離が要求される家族では住戸面積が狭いという問題が出てきたことが、増築運動の始まりとなった。

● 増築の平面形と面積
居室の増築は南側バルコニ-部分の一部を撤去し、ここに接続する形で行われる。既存の建物部分と新たな増築部分とは構造上は別の建物とし、エキスパンションジョイントで連結されている。この事例では6畳の和室2室(約30m2)にバルコニ-が附帯した建物が増築され、増築後の床面積は約80m2に拡大している。接続部分の既存バルコニ-は屋内化し、中廊下・ユ-ティリティ等に使用されている。(平面図参照)

増築した住戸の平面図

バルコニー側に和室(6畳)を
増築した高洲2丁目(1989年)

● 工法・工期・工事費用:
既存建物の構造にあわせ、ラ-メン構造、壁式構造等で増築されるが、この事例ではプレキャストコンクリ-ト板による壁式PC工法が採用されている。1棟あたりの標準工事期間は、調査・準備工事から工事完了・使用開始まで約6カ月を要している。工事期間中の仮住居への引越しの必要がない「住まいながら」の工事である。
この団地では1987年から1990年にかけて棟ごとに増築が行われたが、工事費用は第1期で当時において約480万円、最終期では550万円を要している。 

● 乗り越えてきた様々な課題
 これらの増築を実現するには、いくつかのハ-ドルがあった。技術的には可能であっても一つは法規制(建蔽率・容積率、及び確認申請等)の問題であり、日照・プライバシ-上からも敷地に余裕があることが前提となり、また、増築のニ-ズがあること、居住者間の合意形成が可能でなければならない。更に、実施後の増築棟と非増築棟との問題も生じる。土地・建物登記の問題、今後の維持管理・修繕積立金の問題をどうするかであった。これらの課題への対応はそれぞれの管理組合により様々であったが、このハ-ドルをクリア-することにより、初めて実施が可能となったと考えられる。しかし、その後この「増築運動」は「団地建替え運動」に転換されたが、バブル崩壊とともに全て終焉している。増築を必要とした時期の家族構成と異なり、ライフスタイルの変化も大きく影響している。

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