新マンション事情

事業所の従業者数動向から都市を考える
漂流する東京大都市圏、船の行き着く先を聞きたいが船長が誰やら

 平成22年に実施された国勢調査結果の速報が公表された。17年の結果に比べて全国で0・2%の増加だから、まだ本格的な人口減少は先の話のようである。最も人口増加したのは東京の4・7%で、最も減少したのは秋田県のマイナス5・7%であった。人口減少はまだ先のようにも見えるが、15〜64歳の生産年齢人口に限定すれば既に多くの都道府県で減少傾向が顕著となっている。働く人が減じれば経済規模が縮小する恐れがあり、新規住宅需要は停滞か縮小に向かうと考えるのが自然であろう。
 ところで図は関東地区の地域別従業地別従業者数の変化を指数で示したものだが、特別区の従業者は1995年を境に大きく減少に転じている。原因は製造業の工場がマンション用地として買収され次々超高層ビルに生まれ変わったことによる。元請けの大企業工場が閉鎖されれば、下請工場は仕事が少なくなり倒産、売却がドミノ倒しのごとく連鎖し、そこにも高層マンションが建った。東京の工場が売却されるのは、地価が高く工場の海外移転の資金づくりに有利だからである。工場が分譲マンションに転化することでマンション居住者が増えた地域が少なくない。当該立地では法人税収入が住民税、固定資産税に変わるのだから経済的にはバランスされる。さらに無機質な工場が一新されるのだから歓迎する者も少なくない。但しリストラされた工場従業者の雇用問題は広範囲に拡散する。 製造業の従業者が第三次産業に転職するのは大変苦労するが、中高年であれば失業する。猛烈に超高層ビルが建った地域は新たな雇用を創出するが、局地的であるし、失業者救済とリンクしない。23区に広げてみれば従業者は大きく減り始めている。高齢化が進めばなお従業者が減る恐れは強い。

 特別区に隣接する多摩地域+周辺3県は1995年までは人口増加に伴って従業者は増えたが、95年以降は停滞気味である。いずれ高齢化に伴って従業率は低下する。特別区との依存関係を見ると、特別区を常住地とするものが外部に出て従業する人数は減少し、一方外部から特別区に流入し従業する者も減少している。特別区内で事業所が減れば隣接地域に流出が促進されても良いはずだが、そうならない理由は隣接地域にもあるようだ。理由は男性より職住近接を優先する女性従業者が増えたことに加えて、派遣社員、アルバイター等の非正規社員の従業者全体に占める割合が東京区部より郊外で多いこと等があげられる。言わば水増しの雇用だから遠隔地から通勤する魅力はない。相互の依存関係が薄くなれば鉄道経営は赤字化する恐れは強い。鉄道運賃の値上げ、運行本数の間引きなどが生じたら、都心から遠隔地の住宅はなお寂れる恐れが強い。地方都市では原因と結果は同じ市内で現れるが、大都市圏ではマイナスは広く拡散する。容積率を引き上げて経済の活性化を提言する経済学者が居るが、彼らの都市再生論議は再開発事業区域だけの収支計算に過ぎず、マイナスを周辺地域に付回してもそれは垂れ流しである。ゼロサム社会では特定地域の地価上昇策は単に富の移動でしかない。問題は富を運び去られても多くの国民は気づかないことだ。都市間競争ではわずかな勝ち組と多数の負け組に分かれる。個人も同じだ。成長社会は多くの人が中流意識に浸ったがもはや過去のことだ。(つづく)

(2011年4月号掲載)
(高崎健康福祉大学教授 松本 恭治)