新マンション事情

価格の安定こそ福祉―都市はゆっくり変化するのが良い。

平成7年まで東京は持続的に人口が転出超過であったが、以降入超に転じてますます東京1極集中を強めてきた。郊外の戸建て住宅、マンションが高嶺の花から買いやすい価格に下がった点は中古住宅購入希望者にとっては有難いが、郊外の住宅、特にマンション保有者は資産価値が大幅に目減りしたのだから将来に向けて不安だ。近年マンション居住者の永住意識が高まりつつある。その理由に、住宅規模や設備水準が向上しながらも家族人数の小規模化が進んだこと等が上げられるが、さらにバブル崩壊時期から新築販売価格が持続的に右下がりに落ちてきたこと、バブル期に購入をした場合は売却してもローン残額が残りやすく、住み替えがままならないこと、年功序列の賃金体系が崩れ、将来に不安が増していることが考えられる。ともかく高額物件を購入した後に、急激に中古の値下がりが進行したことを個人の運が悪かったでは、国家の信用は地に落ちる。

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一方日本では不動産開発業界は、ハイリターン、ハイリスクの世界だ。多くは他社の売れ行きに便乗して業務展開するから、立地によってはブームが形成される。過剰供給に陥ると一斉に業者は撤退する。バブル崩壊後、都心の土地価格が下落し、容積率緩和で高層高密度化が都心で可能になると、新築住宅の開発最前線は都心方向に大きく後退した。すると、郊外の新築供給は激減し、特にバス便住宅の中古価格は大きく下落した。結果的に郊外地域における最近の中古住宅取得世帯は低所得化した(図)。郊外の持ち家世帯は都心に比べて平均家族人数が多いから、一人当たり所得で比較すれば、格差はさらに拡大する。「古、遠・バス便、狭、階段室アクセス」住宅に限定すれば、低所得者の割合がさらに増加する。管理組合の力量が大きい場合、大規模修繕を実行できるが、個々の住宅を訪問すると最近は荒れた室内を多数発見できる。経済困窮者が蓄積した結果だ。競売発生率も戸建てに比べてはるかに高い。住み替えによる所得低下が本格化したが、一方、全世帯の集計では意外な結果を見る。都心部では単身借家人が増え、学生や若年労働者の所得は低い。遠隔地に至るほど借家、持ち家共同住宅世帯の比率は低くなり、戸建て持ち家世帯の比率が増大する。全世帯を合算すると、距離帯別の所得格差はかなり縮小し、平均化する。住宅統計を上辺だけで見ている限り、マンションで進行している深刻な問題が見えない。
住宅価格、家賃の安定を図ることは国家の義務で、福祉の基礎だが、残念ながら日本政府には伝統的にその気が乏しい。都市計画は機能していない上、公共住宅政策を放棄し、住宅供給の大半は市場任せだ。従って住宅価格をコントロールする有効な武器を持っていない。ヨーロッパの先進国諸国は、住宅は人権であり、社会保障の基盤、公共財と考えているから市場の暴走は生じない。中古価格は安定しており、老朽住宅以外値下がりしない。都市はゆっくりと変化すれば都市も個人の人生も修正可能だ。なお、近年の超高層ブームの懸念は市場への影響を含めて問題が究明される前に大量に蓄積してしまうことだ。(つづく)

(2009年12月号掲載)
(高崎健康福祉大学教授 松本 恭治)