新マンション事情

小さなコミュニテイーづくりが管理を変えられるか

散々維持管理に苦労してもうだめだと諦めかけていたときに、K氏は駐車場で82歳の男性から話しかけられた。奥さんに先立たれたが、奥さんが自分のことを知っていたらしい。管理組合で頑張っている人として生前ご主人に報告していたとのこと。犯罪の巣窟のようなマンションでも自分の努力を認めてくれていた人がいたのが嬉しかった。そこで管理組合以外で何か出来ないかと考え、軽い気持ちで高齢単身者の井戸端会議を提案した。自分を含めて15人の持ち主が単身高齢者となっているが、なにしろヤクザの親分が2人居住している怖いマンションだからお互いに挨拶もしない。 最初に集まったのは、自分を含めてたった4人である。お互いに困っていることを話そうと2ヶ月に1回会合をすることにした。規約、会費、予め決めたテーマなしの気楽な会合だが、回を重ねる内に少しずつ参加者が増えた。「このマンションが住めなくなる前に自分はあの世に行くよ」「こんな老朽マンションに修理にお金をかけても、子供たちは多分必要としない。修繕費の値上げには応じられない」など本音で語り合うことが出来た。困っていることはどうやら「家具を動かせない」「高いところに手が届かない」「切れた照明器具を替えられない」といったもので、隣人に言ってくれれば簡単に解決するものであった。
語り合う内に、高齢者が入院しても亡くなっても隣人は引越しがあるまで気がつかないのはさびしいとの話が出た。「入院したら教えてほしい、病院に見舞いに行くし、親族から逝去の連絡があれば葬儀に参加するし、間に合わなかったら各自が自分の家でお線香を焚いてお祈りしよう」と約束した。お互いに電話番号を教えることにした。 会員同士が廊下で会うと立ち話が多くなった。よく見ると会員以外との挨拶・立ち話も増えたようだ。毎月1回に会合を増やしてほしいとの要望もあるが、待ち遠しいのか欠席者がおらず、無断遅刻者もいない。次第に高齢者たちは自分のことから回りに目を向けるようになり、「ヘルパーやケースワーカーから話を聞きたい」と言い出した。もちろん声をかけられた人たちは、職業冥利に尽きると大喜びであった。「管理組合役員たちと懇談したい」との申し入れには管理組合も歓迎だった。単身老人が退去するとまた単身老人が入ってくるマンションである。防犯防火ではマンションの方が戸建住宅より安心だ。但し閉鎖的な空間の中で孤立・孤独がいつの間にか大きな問題になっていた。それを訴える高齢者は少なかった。呼びかけ人が高齢単身者であったことが幸いした。

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最近当マンションに朗報が生じた。住民が怖がっていたヤクザの親分2人がそろって刑務所に入った。出所してもマンションには帰らないだろうと警察が言ってくれた。さらに、管理組合が集会所の半分を組合費用で仕切って改装し、高齢者の集まり場所を提供してくれた。最近設置した監視カメラで暴力事件が消えたし、新たな弁護士の協力で滞納金回収にも成果を上げ始めた。背後に応援団が居ることでK氏自身が自信を回復したようだ。まだ捨てがたいマンションである。(つづく)

(2009年6月号掲載)
(高崎健康福祉大学教授 松本 恭治)