管理費等滞納問題を再考する⑧所在不明の滞納組合員&未納管理費等請求の訴え!(2)

所在不明の滞納組合員&未納管理費等請求の訴え!(2)

 

訴状(前回参照)が受理されると、以下のような過程が展開する。

 

期日請書の提出

 

申立書(訴状)が受理されると、裁判所から同請求事件について、口頭弁論期日が指定され、理事長に告知される。理事長は原告として告知された日時に出頭しなければならない。それが「期日請書」という公文書の提出である。

 

口頭弁論に出頭:裁判

 

「出頭」とは、公判、すなわち、原告として法廷に立つことである。口頭弁論のためであり、これが審理、いわゆる裁判なのだ。裁判官から訴状に記載してある内容について尋問を受ける。ここで組合員の滞納の経過と管理組合がどのように催告等努力を継続したかを論述する。所在が不明になった以降の催告・対応がいかに困難であり、その期間にも督促等の責務を果たしてきたことなど、理事長は原告として管理組合の立場から当該請求事件の弁論をする。

被告である滞納組合員が不在の法廷で、審理は進行する。それは前号で説明した居・住所は不明な被告に対しての法的送達手段である「公示送達申立書」を訴状と同時に提出し、受理されたことによる法的効果なのだ。だが被告不在の法廷、前途多難を予感する空しい場面である。

 

判決の言渡

 

公判終結から2週間ほどで、裁判官の判決がでる。判決文は特別送達として郵送される。判決文は最初に当事者(原告・被告)の明示。これは別紙当事者目録に記載されている。次ぎに主文で、被告は原告に滞納管理費等を支払うように命じ、訴訟費用を負担。原告には仮に執行することができる権利。そして事実及び理由が記載されている。要するに管理組合の請求には理由があることが判決の内容である。

<成果と課題>

これで民法第147条による「請求」により時効中断を確保できたことが管理組合としての成果である。さらに判決による直接的な法的成果は強制執行ができることにある。被告に対し原告として、競売の申立てをする法的権利が管理組合に発生。滞納金の回収を進める有益な手段を獲得できたということである。

しかし、ここで新しい問題に直面する。判決後の直接的効果の取り組みについてである。被告となった滞納組合員には他の債権者が存在することが通常であり、優越する抵当権を持っている。理事長は判決をもって管轄の地方裁判所に赴き競売の申立てを試みるが、競売費用に見合う成果は何もない。折角の強制執行を申立てずに見送る。改めて対応策を根本的に再考することになる。

管理費等債権の時効中断を確保した今、いつまで続くが判らない行方不明組合員の管理費等滞納金問題に取り組む方法が課題である。これからまた5年を視野に時効中断を考えるだけなのか。この間、滞納管理費等はかさむ一方である。徴収の見通しは? 不可能ではないのか?

管理組合はかかる組合員から滞納管理費等の徴収は不能であると結論を出せないだろうか。総会で検討する。その際、会計処理として損益決算をし、滞納管理費等債権の放棄を認めてはどうか。だが果たして解決に至るのか?否である。区分所有権の移転がない以上、不在組合員の管理費等の滞納は同じようにその時点からまた始まり、同じことの繰り返しになるだけであるから。

そこで管理組合にとって組合員の義務であるマンションの維持管理に必須の管理費等をそのように処分できる法制度の有無が、まず問われねばならないと考える。学説上、法人格のない管理組合の総有説・含有説・信託説など共有説の争いもあり、区分所有法の立法趣旨では困難であろう。所在不明組合員の長期滞納問題が生じている今日、マンションの歴史が浅いわが国でも、このような問題に対処できるような法的手段を立法化しておく時期に至っているのではなかろうか。

(2006年3月号掲載)