事例
訴訟事例 - 規約を無視して居室でエステ営業
マンションの居住用以外の用途使用差し止め
団地やマンションを住居以外の用途に使用することによるトラブルが増えている。そこで、最近千葉の団地で起きた訴訟で、担当した日住協協力弁護士・石川貴康氏に事件のあらましを執筆いただいた。
団地内の区分所有権を有する組合員が、虚偽のリフォーム申請を行い、居室でエステ営業を行ったことに対して営業の使用差し止めと原状回復が認められた事例の紹介(千葉地方裁判所佐倉支部平成17年7月21日判決)
<事案の概要>
- A(=原告)は千葉県内の団地の管理組合であり、B(=被告)はA団地内の居室の一室を購入して、Aの組合員になった。
- Bは居室を購入して4ヶ月後、Aに対してリフォームの許可申請を出したが、Bは許可申請の内容とは異なるリフォーム工事を始めたため、Aはリフォーム申請を却下するとともに、Bに対して、リフォーム工事の中止と営業の停止を求めたが(Bは工事完成前から近隣にエステ営業のチラシを配布していた。)、Bはこれを無視して工事を続行し、エステ(美顔エステ)営業を始めた。
- Aから依頼を受けた当職(筆者)はBに対して営業停止と原状回復を求める通知を送付した。Bから話し合いの申し入れもあったが、営業を停止することについては最後まで拒否したため交渉は決裂して裁判を提起した。
- なお A管理組合では規約の他に、共同生活の秩序維持に関する協定を定めており、その協定において「住宅を他の用途に使用すること」を禁止している。 また、建築協定も定めており、その協定において「建物の主要構造部(建物の構造上不可欠な壁、柱、床及びはりをいう。)の穿孔、切欠その他主要構造部に影響を及ぼす行為」を禁止している。
<裁判の経過>
- 当職がAの代理人として裁判上求めた内容は次のとおりである。
- Bは、建物の居室をエステ営業に使用してはならない。
- Bは、Aに対して、建物の居室内に設置した別紙図面Tに設置した木製内扉、U及びVに設置した洗面器、Wに設置した棚、電気配管、Xに設置した段差解消のためのモルタルをそれぞれ撤去せよ。
- Bは、Aに対して、別紙図面Yの浴室と洗面所の間に間仕切りを設置せよ。
- Bは、Aに対して、金42万円を支払え。
- 内容はaがエステ営業の差止めを、bとcがリフォーム前の原状回復を、dは弁護士費用の支払いを求めるものである。
そして当職は上記の請求の根拠としてBの行為はAが定めている協定に反するものであること、Bは居室の壁など共用部分に該当するものを無許可で取り壊すなどしているが、これは建物の区分所有等に関する法律6条第1項に反する行為であることを主張した。 - これに対してBは次のように反論した。
- 当初Aに提出した内容と異なる工事をしたことは認めるが、当初のリフォームの予定と実際に行ったリフォームが異なったのは建物が想像以上に老朽化していたからである。従って、自分(B)の行った工事は純粋なリフォームではなく「保存行為」的な意味合いも有している。また、後日正確なリフォーム工事内容の書面を提出するつもりであった。
- Aは工事の途中では何もクレームを付けずに、工事が終わってからクレームを出したもので、Aの勧告(クレーム)は権利の濫用である。
- エステ営業の事実は認めるが、近隣住民に何らの迷惑もかけていない。Aの団地では自分(B)以外にも学習塾やピアノ教室、税理士事務所等に使っている組合員もいるのに自分(B)だけ訴えるのはねらい打ち的な不当な訴訟である。
- Aの管理組合では(規約で禁止されている)ペットの飼育や違法駐車が行われているのに、何らの対応策もとっていない。そうだとすれば、Aの管理規約は実質的に変更されているとみるべきである等と反論した。
- 当初Aに提出した内容と異なる工事をしたことは認めるが、当初のリフォームの予定と実際に行ったリフォームが異なったのは建物が想像以上に老朽化していたからである。従って、自分(B)の行った工事は純粋なリフォームではなく「保存行為」的な意味合いも有している。また、後日正確なリフォーム工事内容の書面を提出するつもりであった。
- これに対してAは次のように再反論した。
- 本件は明らかに規約・協定、区分所有法に反する違法なリフォーム工事である。
- Aは工事完了前に、きちんとBに対して中止勧告を行っている。○日に現地調査を行い、申請が虚偽であることを確認した後○日に工事停止勧告を行っている。そもそもBが当初申請したリフォーム内容と異なる内装工事を行ったことが一番の問題であり、このような虚偽申請に基づいて内装工事を行ったBが「早く気が付いて注意されていれば工事を止めていた。」等と言うのは論外である。
- Bは本件訴訟を「ねらい打ち」と非難するが、Bは居住目的を前提としたリフォーム申請をしながら、実際はエステ営業を前提とするリフォームを行ったのであり、特にBの内装工事は建物の共用部分である躯体に及んでいることから、規約違反は当然として、区分所有法(6条1項)にも反するもので、極めて違法性の高いものである。A管理組合としてはBの違反の程度が他の違反者に比べて高いから毅然たる対応を取ったにすぎない。自ら違法行為を行っているBに「ねらい打ち」とか「権利濫用」という資格は全くない。
- Bは近隣の住民が特に迷惑でないと言っているが、全く無意味な主張である。Aは総会において本件訴訟を提起することを決議しているのであるが、Bに対して訴訟を提起する議案は圧倒的多数(約90%)で可決しており、組合員の意思はBの違法行為は看過できないということである。
他の区分所有者の一部が学習塾や事務所に使用している事実は否定しないが、これらが不問に付されているわけではない。いくつかある規約違反行為の中でもBの事例が一番悪質であるから、まずBから訴訟を提起したに過ぎない。組合員の圧倒的多数は訴訟提起に賛成しているのである。規約を遵守しろ!というのが組合員の意思であり、規約が変更されていないことは明らかである。
仮に一部の組合員がペットを飼育していても規約違反であることは変わりない。そして、どの程度の規約違反があればその是正を求めるかは一次的には理事会等で検討するのであろうが、最終的には全区分所有者による総会等で判断されるべきである。
<裁判所の結論>
裁判所はAの主張を全て認めた(但し、訴訟の途中でBは実質的にはエステ営業を停止するとともに、洗面器を撤去するなどしたため、当初求めていた原状回復の範囲を一部取り下げたが、残された請求は全て認められている。)。 その理由も基本的には前述したAの主張を受け入れてくれたものである。
<コメント>
マンションや団地の区分所有者は、専有部部に対して単独所有権を有していることから、本来であれば、自分の専有部分はどのように使おうと自由なはずである。
しかし、マンションや団地の集合住宅では、生活空間が密着しているため相互に影響を受けやすい。
そこで区分所有法は区分所有者間相互の権利を調整し、円満な共同生活を維持するために、区分所有権に対する特別の制約を課している。6条で「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。」と規定していることがそれを現している。
また、30条は「建物又は敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互の事項はこの法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」と規定している。これは区分所有法自体が規約で利用方法を制約することを認めているのである。
この規定を踏まえて、専有部分の用途を住居に限定する旨の規約を定めているマンションは少なくないが、本件のように規約を無視して営業を行いトラブルになるケースは珍しくない。
類似の判例として横浜地裁平成6年9月9日判決がある。これは区分所有者C(個人病院の経営者)が自分の病院で働く看護士の幼児の保育室として居室を利用していたところ、管理組合が差し止めを求めたケースであるが、裁判所は使用の差し止めを認めている。
では規約に違反した場合、どんな事案でも使用が許されなくなるのであろうか?この点前記横浜地裁の判決は次のように判断している。
「密接した生活空間に居住する者は、騒音、振動、臭気等についてはそれぞれが発生源となり得る関係にある以上、それが多少のものである限り、いわば『お互い様』という言葉を持って表現されるように、相互に我慢し合うことが必要であるが、これが、一定の許容限度を超えるならば、それは建物の区分所有等に関する法律6条1項所定の『区分所有者の共同の利益に反する』として、このような使用方法が許されなくなるというべきである。そして、これを判断する際には、当該行為の性質、必要性の程度、これによって他の住民等が受ける不利益の態様、程度等の事情を十分比較して、それらが住民等の受忍の限度を超えているかどうかを検討するのが相当である。」
この基準から明らかなように、裁判所は形式的に規約違反行為があるからといって、その全てを一律に禁止しているのではなく、当該行為(規約違反行為)の性質や必要性とそれによってもたらされる住民の不利益の程度を比較衡量して判断しているものである。
横浜地裁の事例では、保育室として使用しているため多数の赤ちゃんが飛び跳ねたり、駆け回るなどの騒音や振動の被害が大きいことやCは保育室を他に求めることが出来ることなどが考慮されている。
今回の千葉の事例でも当職は不特定多数のものを対象にエステ営業をすることは、団地外居住者が団地内に出入りすることになるから、団地コミュニティーの平穏が破られること、即ち、他の区分所有者が受ける不利益が大きいことを強調した。千葉の事件の裁判官も基準こそ明示していないが基本的には横浜の事件と同じように比較考量をしているのである。
仮に、Bが建物内の内装を変更することなく、団地内居住者だけに限定する形で、平穏な営業を行っていた(例えば、手芸教室等)とすれば営業停止が認められるかは微妙であったと思われる。
このような問題を考えるに際して重要な視点は居住用目的に限定した規約の価値を区分所有者(組合員)がどのように考えるのか?であろう。その価値を重視するのであれば、規約違反行為に対して厳格な対応をするべきであろう。
他方、居住者の平穏な生活を害さない形であれば、多少の例外を認めるのであれば、一定のルールを決めて、理事会の承認等を前提に居住用目的が失われない形での営業的行為を認めることも一つの考え方ではある。
この辺を曖昧にしておくと、今回のケースのように裁判になった時に「他にも営業をしている者がいるのに自分だけ訴えられるのはおかしい」との反論を許すことになってしまう。
もっとも、今回の千葉の事件ではBが共用部分(壁等)を撤去するという建物の安全性に影響を与える行為を行っており、この違法性は相当強いものである。
この点は単純に居住用目的に違反している横浜の事件と異なる部分である。
本件ではこの違法な行為に対しては原状回復を認める形で処理されているが、営業停止の判断に際しても影響を与えていると思われる。