「区分所有者から会計帳簿のコピーを求められているが認められるのか?」(2014年3月号掲載)

区分所有者から、管理組合の会計帳簿をコピーさせるよう求められています。規約上、会計帳簿の閲覧は認められていますが、コピー(謄写)については規定がありません。管理組合は、コピーを認めなければなりませんか。

類似の事例が争われた判例として、東京高裁判決平成23年9月15日(判例タイムズ1375号223頁)があります。

コピーを求める側は、

(1)本件規約に謄写請求権についての規定がないのは、制定当時コピー機が広汎に普及しておらず、謄写が容易な環境ではなかったためであり、謄写請求権を否定する趣旨ではない。しかし、現在は集会室に管理組合のコピー機が存在しており、謄写が容易な環境にあるため、本件では謄写請求も認められるべきである。

(2)謄写によって多年度かつ多種の文書の比較検討を容易にし、閲覧の意義をより高めることになるのであるから、謄写請求権まで認めることが当事者の合理的意思に適うものである。

(3)閲覧のみしか認めないとなると、閲覧者は多種、多年度の会計関係書類の数字の検討、対比等をしようとするから、必然的に長時間の閲覧が必要となり、場合によっては複数回の閲覧が必要となることも考えられるが、それでは閲覧させる側の負担も大きいものとなる。  

これに対し、謄写が認められれば、閲覧者が要する時間は非常に短くなり、謄写を認めることは閲覧をさせる側の利益にもなるから、謄写請求が認められるベきである。などと主張しました。

これに対し管理組合は、

(1)団体の構成員に会計関係書類の閲覧謄写を認めるか否かは、当該団体の規約によって自主的に決められるべきものであり、本件規約に閲覧請求のみが規定され、謄写請求について規定がないのは、管理組合において、プライバシー侵害や事務処理上の便宜等を考慮し、管理組合における会計処理のあり方や審査の仕方は、総会における報告・承認、帳簿等の閲覧による範囲にとどめるのが相当と判断したからである。

(2)謄写が認められれば、請求者は、管理組合の財産の使用の監督・是正という目的とは関係のない個人情報も保持し得ることとなり、閲覧のみを認める場合と比べて更にプライバシー侵害の程度は大きくなる。などと反論しました。

判例は、

(1)謄写をするに当たっては、謄写作業を要し、謄写に伴う費用の負担が生じるといった点で閲覧とは異なる問題が生じるのであるから、閲覧が許される場合に当然に謄写も許されるということはできないのであり、謄写請求権が認められるか否かは、規約が謄写請求権を認めているか否かによる。

(2)規約で閲覧請求権について明文で定めている一方で、謄写請求権について何らの規定がないことからすると、本件規約においては、謄写請求権を認めないこととしたものと認められる。

(3)組合員からの閲覧請求に対しては、社会通念上相当と認められる時間閲覧をさせることで足り、1回の閲覧請求で不相当に長時間の閲覧が認められるものではないから、閲覧の時間を短縮するために謄写請求権を認めるべきとの主張は理由がない。などとして、コピーさせることの請求を認めませんでした。

この論点については、結論が裁判例でも分かれていますが、高裁レベルでは認めない方向に判断されていますので、管理組合としては、コピーの求めに応じる必要はないでしょう。もっとも、状況に応じてコピーを認めるなどの対応をとることは許されますし、管理組合の運営に関して組合員に監督・是正の機会を与えるという観点から、コピーを認めるのがむしろ望ましい場合もあるでしょう。

回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・内藤 太郎
(2014年3月号掲載)