「規約で共用部分の変更についての要件を現行より厳しくすることは可能か?」(2013年7月号掲載)

現行の管理規約では、共用部分の変更について、区分所有法17条1項と同様の規定がされているのですが、これを次のように改正することは可能でしょうか。

「共用部分の変更は、組合員及び議決権を有する組合員の各5分の4以上の多数による決議で決する。ただし、改良を目的とし、かつ、理事会において著しく多額の費用を要しないと決定した共用部分の変更は、組合員の議決権の4分の3以上の多数による決議で決する」。

区分所有法17条1項は、「共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く)は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる」と規定されています。したがって、ご質問にある規約改正案は、区分所有法よりも議決要件を厳しくする内容となっています。

昭和37年に区分所有法ができた当時、共用部分の変更は、共有者全員の合意がなければできないのが原則で、改良目的でかつ著しく多額の費用を要しない変更は、共有者の持分の4分の3以上の多数で決められるとされていました。また、規約で別段の定めができるとも規定されていました。

しかし、1人でも反対があると大修繕ができなくなるなど、共用部分を維持管理する上で適切でないことから、昭和58年に改正がなされ、区分所有者及び議決権の4分の3以上で共用部分の変更が可能になり、改良目的でかつ著しく多額の費用を要しない変更は普通決議で決めることができるようになりました。この改正の趣旨は、議決要件を緩和して、大修繕等をしやすくすることにありますから、規約で法定の要件より厳しくすることは相当でないというのが当時の立法担当者の考え方のようです。

その後、大修繕をより実施しやすくするため、平成14年に現行の規定となり、多額の費用を要する場合でも、形状又は効用の著しい変更を伴わない変更は普通決議で実施することが可能となりました。

規約で要件を厳しくすることは、要件を緩くしてきた改正の流れと逆方向です。また、昭和58年改正の立法者の意図からすると、規約で要件を厳しくすることは相当でないことになります。こうしてみると、ご質問のように、規約で共用部分の変更についての要件を法定より厳しくすることは許されないとなりそうです。

しかし、これには反対説もあります。規約を改正して議決要件を厳しくしても、後に不都合が生じた場合は、あらためて規約を改正することができる(区分所有者及び議決権の各4分の3以上で可能)ことから問題ないとし、区分所有者の所有権者としての自由を重視する立場です(コンメンタールマンション区分所有法第2版104頁)。

この問題については、判例が見あたりません。私見ですが、規約による要件の厳格化は避けた方がよいと思います。例えばご質問のような規約改正が認められ、後に、形状又は効用の著しい変更を伴わないが著しく多額の費用を要する大修繕を実施しようとする際、この大修繕に賛成の組合員数及び議決権数が過半数を占めるものの、各4分の3には満たないとすれば、規約をあらためて改正して法定の要件に戻すことはできないことになり、法定の要件(普通決議)であれば可能な大修繕は実施できない結果となります。この結果は、共用部分の適切な維持管理を期待する法の趣旨に反するでしょう。

 難しい問題ですが、ご質問の規約改正は、区分所有法17条1項の趣旨に反するおそれがあるため、避けるのが望ましいというのが筆者の見解です。

回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・内藤 太郎
(2013年7月号掲載)