管理費滞納者に対して区分所有法59条1項の適用はできるのか。どのような手続きが必要か?(2010年9月号掲載)

前回のQ&Aで滞納者に対して、通常の裁判を提起して判決を得て、それに基づいて競売の申立をしても、滞納者の区分所有権に担保権が設定されていると競売手続が無剰余で取り消されてしまう可能性があること、59条1項に基づく競売手続では無剰余の取り消しが適用されないことを説明しました。今回は管理費を滞納している者に対して59条1項を適用できるのか、できるとしてどのような手続が必要なのかについて説明します。

 

区分所有法の59条1項は著しい義務違反がなされ、区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難な場合で他に方法がない場合には訴えをもって当該義務違反者たる区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求できることを規定しています。

管理費を滞納していることが、共同の利益に反する行為といえるのか問題となりますが、多額の管理費の滞納が共同の利益に反する行為に該当することは裁判所も認めていますので、59条1項の競売請求の手続をとることができます。

59条1項の競売請求を行うためには区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数で決議する必要があります。即ち、集会における特別決議が必要となります。また、この決議に先立ち当該区分所有者に弁明の機会を与える必要があります。

弁明の機会の方法は決議をする集会の場で認めることが一般的ですが、例えば事前に弁明書の提出を求めて、それを集会の前に(例えば議案書に同封する形で)組合員らに送付することなども考えられます。

59条1項の競売手続をするためには「他の方法」ではその障害(管理の滞納状態)を除去することが出来ないことが要件とされています。

この点で59条1項の競売請求をする前に通常の裁判や差押えの手続をとってそれが功を奏しないことが必要となるのではないか疑問が生じますが、筆者はこれまで何件か管理費を長期間滞納した者に対して59条1項に基づく競売請求の裁判をしていますが、通常の裁判手続や差押え手続を経ていない者に対しても59条1項の請求は認められています(他方で、滞納者に対して容易に執行することの財産があることが明らかであれば、「他の方法」で障害を除去できるとして59条1項の要件を充たさないと判断されることになりますが、滞納者にかかる財産があることが判明していることは稀でしょう)。

最後に、団地管理組合で59条1項を検討する場合、区分所有法59条の規定は66条の団地規定において準用されてない点に注意を要します。

つまり、団地において59条1項の競売請求を行う場合には、団地の総会で決議するのではなく、各棟において決議することになります。

棟別に規約が定められている団地であれば大きな問題はありませんが、棟別の規約がなく、棟総会の開催実態がないような団地では手続に注意を払う必要があります。実際に行う場合は弁護士に相談してください。

回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川貴康
(2010年9月号掲載)