隣接して2戸所有のAさんは室内の壁を壊して往来していた、管理組合としてどう対応すれば良いか(2009年11月号掲載)

私たちのマンションの201号室と202号室はいずれもAさんが所有しています。201号室にAさんのご夫婦が202号室はAのご両親が居住しています。給排水管の工事をするために201号室に立ち入ったところ、201号室の壁の一部が取り壊されて202号室と往来ができるようになっていました。管理組合としてはどのように対応したら良いでしょうか?

まず、Aさんが壁を取り壊すことができるのでしょうか。この問題については専有部分相互間の境界部分を構成する「壁」や「床」のどこまでが専有部分でどこからが共用部分となるのかを考える必要があります。

これについてはいくつかの考え方がありますが、現在では「境界部分の骨格をなす中央の部分は共用部分であるが、上塗り部分は専有部分とする」所謂上塗り説が有力です。標準管理規約も「天井、床及び壁は、躯体部分を除く部分を専有部分とする。」と規定していますが、これも上塗り説を前提としていると考えられます。  上塗り説を前提とすれば、壁の上塗り部分は専有部分になりますが、骨格部分は共用部分になりますから、所有者が勝手に取り壊すことはできないことになります。

区分所有法6条1項では「建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない」と規定していますが、共用部分である「壁」を取り壊す行為は「建物の保存に有害な行為」に該当すると考えられます。  また、区分所有法57条1項は6条1項に反する行為をした場合やその行為をするおそれがある場合は、その行為の停止やその行為の結果の除去を求めることができます。

この「行為の結果の除去」というのは現状に戻すことを含みますので、管理組合としては取り壊した壁を元に戻すことを請求することができます。  本問とは若干事案が異なりますが、実際の裁判例として、建物の壁に貫通孔を設けて給水管やガス管を通して、ガスバランス釜を設置を設置したことに対して、管理組合が57条を根拠として、現状回復(バランス釜の撤去、配管・配線の撤去、貫通孔の埋め戻し等)を求めた事件がありますが、この裁判で東京地方裁判所は管理組合の請求を全面的に認めています。

なお、実際に現状回復として壁を元に戻すことを請求する場合には、見た目だけの壁を設置しても意味がありません。言うまでもありませんが、壁は躯体の重要な部分であり、これを取り壊すことは建物安全性に影響を与えている(耐震性の低下等)可能性が高いと思われますので、専門家である1級建築士等のアドバイスを受けながら現状回復の方法を考える必要があります。

もっとも、壁を撤去することは「共用部分の変更」に該当しますから、区分所有者及び議決権の4分の3以上の賛成があれば理論的には可能です。しかし、壁を取り壊すことは建物の安全性に影響を与えることが通常であることを考えると好ましくないことは確かであり、また実際に4分の3の賛成が得られる可能性は極めて低いでしょう。

回答者:法律相談会 専門相談員 弁護士・石川貴康
(2009年11月号掲載)