災害関連死ゼロの社会を目指す(6)

災害時の病院はパンク状態

 

地震災害直後は多くの人がケガをします。例えば、阪神・淡路大震災や新潟県中越地震、熊本地震、北海道胆振東部地震などの直下型地震と呼ばれる地震のタイプでは、ケガをする原因の約70%が「家具の転倒や落下、移動」「ガラスの飛散」によるものです。そのため、被災地内の病院には、ケガをした多くの方が自力で向かう、あるいは周辺の方の協力で運び込まれます。日常は基本的に受付をした方から順番に診療を行っていきますが、災害時は一人でも多くの命を救うために、ケガの程度が酷い方から優先的に治療を行うように流れが変わります(これをトリアージと言います)。
消防・救急機関や赤十字社などの医療専門機関が、日頃行っている防災訓練の中で止血の方法や三角巾の使い方を一般市民向けに教えているのは、「被災者自らで手当てを行ってもらわないと、ケガの程度があまりひどくない方への治療まで手が回らない」そのための予防対策に重点を置いているためです。マンションなどの集合住宅でも、固定されていない家具が原因となってケガをする可能性は非常に高く、仮にケガをした場合でも病院まで「地上まで階段による搬送」「集合住宅から病院までの搬送」の垂直方向と水平方向の両方で困難が伴うことになります。そのため、まずはケガをしない対策がとても大切になります。

 

家具の固定

 

被災後に体調を崩すリスク

 

 「地震災害が発生した直後は、多くのケガ人が病院に殺到する」そのような状況が発生することはご理解いただけたかと思います。一方で気づきにくいのが「被災後に体調を崩してしまった場合に、誰がケアをするのか」という部分です。例えば、今のような夏の時期に、救出活動の支援や片づけ、物資の搬送など、被災直後から必要となる屋外での作業を、皆さん自身で行う場面を想像してみましょう。一般的に湿度や気温などで求める暑さ指数(WBGT)が31℃以上の場合には、日常生活の中での運動は中止します。しかし、災害発生後の対応は時間が勝負となることも多いため、健康な被災者自身のケアまで気づかずに作業を行ってしまう。その結果として、災害発生後に熱中症で倒れる方が出てくるのです。
 ところが先述したとおり、被災地の病院はすでにケガ人でいっぱいです。めまいや「こむら返り」といった症状が出る軽症レベルから、意識障害やけいれん、高体温のような症状が出る重症レベルまで、様々な熱中症の方が出てきた場合に、私たちは適切な処置や予防対策を行うだけの技術や知識を持っているでしょうか。それができなければ、熱中症という新たなケガ人を病院に運ばざるを得なくなるのです。

 

防災対策における予防の重要性

 

 地震災害直後に家具の転倒などでケガをする方、あるいはその後に熱中症で倒れる方などが出た場合に、どのようなケアを行うか、その対処法を学ぶことはとても大切です。その一方で、ケガをする人を減らすための準備がなおざりになっては本末転倒です。「家具の固定を行ってケガのリスクを減らそう」「熱中症対策として、補水の備えを行い、きちんと水分を取るようにしよう」予防対策は、命を守るために誰もができることなのです。

 

一般社団法人地域防災支援協会
 http://www.boushikyo.jp
一般社団法人日本環境保健機構
 http://jeho.or.jp

 

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2019年8月掲載)

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