106.アートと経営

全体と部分をズーミング

 

 アートが、経営に役立つといった本が目立ちます。経営層にはもちろん、いくつかの部門にもアートは効くといいます。この場合のアートとは、美術を指しています。キャンバスなどにカタチが描かれ、そこに鮮やかな彩色が施されていて刺激や平穏を感じることができます。
 「このようなことを感じてほしい」という意図をもって制作するのが具象ですが、アート作品の多くは抽象的ですから、観る人がさまざまな感情やストーリーを自分の心の中に描けます。
 作品の最終形をイメージしながら全体を俯瞰し、また細かな部分にも気を抜かず、それらをズームインやアウトを繰り返し、多面的に物事を観察するという制作過程そのもの、そういう方法論が経営に活かすことができるということでしょう。

 

音楽はけっこう複雑

 

 音楽は、アート作品とは少し異なります。時間の芸術で一回性という極めて不経済的、かつ品質にバラツキがあり、別の演奏会で同じ曲を同じ指揮者、同じオーケストラで聴いたとしても同じ演奏にはなりません。それこそが音楽の一回性の特徴であり、良さなのです。作曲家が曲を作り、演奏家が楽譜を読み取って音にする。その際、指揮者は曲の本質を感じ取って全体の最適化を考えて演奏をナビゲートする。そして聴衆が喜怒哀楽などを感じる。音楽の場合は要素が多い分、経営も含めて他の分野への貢献は多大ですが、そのように使える人はまれなのではないかと感じます。
 ということで、音楽を聴くだけで幸せになる、その感覚を大切にしたいと思います。

 

 (服部 伸一 エッセイスト・写真家)
集合住宅管理新聞アメニティ441号 (2019年6月号掲載)

関連記事