バルコニーの隣戸避難板が割れない(2014年10月号掲載)

 居住者がマンションのバルコニー隔板に物干棹をぶつけ穴が開けてしまい隣が見えてしまうので取替えて欲しいとの依頼が管理組合にありました。工事業者に依頼し穴の開いたボードを取り替えるのに叩いて割ろうとしましたが、容易に割れません。金槌や野球のバットで叩きましたが割れず小さな穴が開くだけでした。
 隣戸避難板は非常の際、叩き割り隣戸に避難するためのものと思いますが、大の男が叩いても割れないのでは避難が困難です。建物の竣工図を調べるとケイ酸カルシウム板厚6ミリと記載されていましたが、工事業者の話ですと使われているのは割れにくいフレキシブルボードの厚6ミリである事が判明しました。
 この旨を販売主に伝え、全戸ボードを取り替える様に要請しましたが、フレキシブルボードはケイ酸カルシウム板相当品であるから瑕疵は無い、高層マンションでは今でも通常に使用されているボードであるとし、取り替えに応じません。

 一般的に隣戸避難板はフレキシブルボード厚6ミリを使用しているのでしょうか?又、この取替請求は正当では無いのでしょうか?

 バルコニーの隣戸避難板は玄関側が避難困難な場合、バルコニー伝いに隣の住戸へ避難する(二方向避難)ために設けられた設備で、消防庁告示などで定められています。避難するためには隣戸避難板は「容易に開放、除去又は破壊できる等避難上支障のない構造のもの(平成17年消防庁告示第3号)」とされています。ここに出てくる容易に破壊できるの定義はありませんが、「就寝施設を有する防火対象物等の防火安全指針(平成11年3月31日消指導第296号)」では、「仕切板を設置する場合は、容易に破壊(例 フレキシブル板4mm以下)」と記載されているのが一つの目安です。

 いずれにしても、6ミリのフレキシブルボードは、かなり破壊困難だと推察されます。竣工図記載のケイ酸カルシウム板6ミリの2.8倍の曲げ強度を有しています(耐衝撃強度は手元に無く不明ですが)。

 難燃性ボードとしてはケイ酸カルシウム板相当品と云って良いかも知れませんが、隣戸避難板は上記の様な必要性能(容易に破壊できる)を満たさなければなりませんので、相当品等は言えないと考えます。

 他の高層マンションで使用(超高層マンション等では耐風圧上、厚いフレキシブルボードを使用している例はあるようですがそれでも5ミリ厚です)していようがいまいが、所期性能を満たしていないのですから、取替の要求は正当だと考えます。以上の事を販売主に訴え再度交渉してみてはいかがでしょうか。

回答者:NPO日住協協力技術者 一級建築士 山田 俊二
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2014年10月号掲載)